普天間基地周辺のPFAS汚染状況マップ更新

普天間基地周辺のPFAS汚染状況マップを更新しました

IPPは、汚染状況把握・理解のためのビジュアルエイドとして普天間基地周辺のPFAS汚染状況のマップを作成・更新してきました。県の調査が2019年4月に発表されており、遅くなりましたが、IPPのマップを更新しました。

普天間基地由来とされるPFAS(PFOS、PFOAの汚染)問題のこれまでの経緯については以下の記事を参考にしてください。
「普天間基地周りのPFOS/PFOA汚染 : 宜野湾市の当事者性を問う」(2018年10月22日)
「沖縄県による普天間基地周辺のPFAS(有機フッ素化合物)汚染調査に関する意見書」(2019年4月19日)

今回、マップで更新した情報は以下の2点です。

1)沖縄県2018年度冬季調査データ
2019年4月23日、沖縄県環境保全課は「平成30年度(2018年度)有機フッ素化合物環境中実態調査の冬季結果報告について」を発表しました。
今回の調査では、普天間基地周辺以外の新たに比謝川周辺、天願川でも調査を実施していますが、比謝川、天願川についてはまた別記事で触れます。
この結果を受け、データを更新しています。

2)西普天間返還跡地との関係を情報として追加
また、西普天間の返還跡地との関係をマップに情報として重ねました。
普天間基地周囲では最高濃度のPFAS検出がされているチュンナガーは、西普天間の跡地区域に位置しています。また、その付近は跡地計画の中で都市公園の区域にはいっています。これは西普天間返還跡地の水の汚染問題です。
昨年から既に宜野湾市議会でも玉城健一郎議員が質問していますが(2018年6月定例会)市の答弁は「西普天間住宅地区では、都市公園の整備計画において、国指定文化財のチュンナーガーを初めとして複数の湧水群を利用して園路整備等を検討している段階でございますが、これら湧水群からのPFOS、PFOAについての検出については、考慮しながら関係部署と調整をしてまいりたいと考えております。」というものでした。何を「考慮」して、どの部署となんの「調整」を何の目的でするのでしょうか。 
跡地利用特措法にはPFOS、PFOAはもちろん調査項目に入っていません。

以下、マップです。今回は、地下水の流水方向を地図にいれています。

このPFAS汚染視覚化事業は一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストのスポット助成事業により実施しています。

 

沖縄県による普天間基地周辺のPFAS(有機フッ素化合物)汚染調査に関する意見書

 沖縄県の有機フッ素化合物の調査の問題を指摘する下記意見書を、沖縄県知事と関係部局(沖縄県環境部、沖縄県保健医療部、沖縄県企画部、沖縄県農林水産部長、沖縄県知事公室、沖縄県企業局)に2019年4月6日付で送付しました。
 今後、県の調査に依拠して対応してきた宜野湾市、汚染の影響を受けている自治会、関係県議等にも送付します。

沖縄県による普天間基地周辺のPFAS(有機フッ素化合物)汚染調査に関する意見書 – 県は水や食の安全を保証できるのか? –

2019年4月6日
The Informed-Public Project
(インフォームド・パブリック・プロジェクト, IPP)
代表 河村雅美

 本意見書は、普天間基地周辺のPFAS(有機フッ素化合物)汚染に関する沖縄県の調査の問題、特に安全を保証するための調査や評価に関する点を指摘するものである。
 普天間基地周辺の湧水や地下水から有機フッ素化合物(PFAS、PFOSとPFOAを含む)が検出されていることが、2016年からの沖縄県環境部環境保全課の調査で確認されている。

 この汚染問題に関して、インフォームド・パブリック・プロジェクト(The Informed-Public Project, IPP)は、2018年10月に宜野湾市に意見書(以下、「宜野湾市への意見書」)を提出している[1]。「宜野湾市への意見書」の中でも沖縄県の調査の評価の部分における問題について指摘してきた。

 本意見書では、沖縄県のPFAS汚染調査において安全性を保証する市民への案内や、調査報告の評価における問題に焦点を当てて指摘する。普天間飛行場周りのPFAS汚染に関しては、宜野湾市や県民は、県の調査による安全評価に依拠し、簡易水道、農業用水等、汚染された湧水の飲料以外の使用を継続している。
 しかし、その安全性を保証する手順について、問題があるとIPPは考える。ここでは、県の調査報告の内容や、分析・評価を検証し、問題を指摘する。

 本意見書の問題の射程は、沖縄県の今回の調査の内容や分析・評価の問題にとどまらず、そこに現れる、汚染問題に対する沖縄県の姿勢と能力の問題であることを強調しておきたい。沖縄県が、汚染問題の本質の理解に欠けていること、汚染問題に対するいわば行政「哲学」を持ち得ていないことが、調査報告に現れている、ということを批判的に検証することが、この意見書の最終的な目的である。

 意見書の最後には、今後の沖縄県の対応の参考になると考えられる情報提供を行う。

 本意見書の中では、農作物の安全に関する県調査への批判を述べているが、農作物が安全でない、危険である、という見解を示しているわけではないことには留意されたい。

構成
1. 経緯
2. 普天間基地周辺のPFAS汚染
3. 沖縄県の調査報告の問題
 (1) 沖縄県の案内:「人への影響はよく分かっていないことから」?
 (2) 沖縄県の「農作物」調査と評価の問題
  ①「至急」実施された調査
  ② 調査地点の選定:公開されない比較対照地点
  ③「農作物」=田芋の調査方法
  ④ 安全性の根拠とする論文の不正確な引用
  ⑤ 米国専門家の提言
4. 家庭菜園・農業用水とPFAS汚染:米国の州の対応
5. むすび

 [巻末資料] 意見書に関連する記事
<付属資料>米国の参考資料訳文
 (1)ミシガン州作物・園芸・食べ物に関するよくある質問
 (2)バーモント州健康部からの市民への案内抜粋
 (3)ウィスコンシン州健康サービス部文書

 

1. 経緯

 2016年度から、沖縄県環境部環境保全課は普天間基地が汚染源と思われるPFASの汚染について調査している【表1】。飲料水を供給する沖縄県企業局が、嘉手納基地周りの水源のPFOS/PFOA汚染を担当しており、企業局が2016年1月にその事実を県民に発表したこと等を受け、環境部が全県的な調査を2016年度に実施した。2017年度からはPFOS/PFOA汚染が確認された普天間飛行場周辺のみに限定した調査を実施している。

 調査や調査の評価で用いる水の安全基準については、環境部は嘉手納基地由来のPFAS汚染に対処する沖縄県企業局と同じく、米国環境保護庁(EPA)の生涯健康勧告値(70ng/L)を用いている。この数値の安全性の問題が米国で提起されていることについては、IPPが既に提言書を2018年7月に関係機関に提出している[2]

 

2. 普天間基地周辺のPFAS汚染

 普天間基地周辺からのPFAS濃度は、前述したIPPの「宜野湾市への意見書」でも示しているとおり、普天間飛行場下流側で高い値を示している。チュンナガー(喜友名泉)ではPFOSとPFOAの合計値が最高で2000ng/L,メンダカリヒーガーは710ng/Lが検出されている[3]【図1】。

【図1】普天間基地周辺のPFOS/PFOA汚染状況(湧水・地下水)

 ジョン・ミッチェル氏の米国情報公開法による調査により、普天間基地内でのPFOS/PFOAの調査結果も明らかになっている[4]。ジョン・ミッチェル氏が米国情報公開法により入手した海兵隊文書では、2016年2月に基地のファイアーピット(消火訓練施設)の廃水からPFOSが27,000ng/L、PFOAが1800ng/L検出されたことが確認されている宜野湾市自然環境データベースの水文地質の図と重ね合わせると、チュンナガーで高濃度のPFASが検出されていることの原因が推測される。「宜野湾市への意見書」でも記したとおり、基地内で土壌汚染、地下水汚染が発生している裏付けとなるデータである。これらのデータは【図1】に反映しているので参照されたい。

 このようなデータから、普天間基地内にPFASの汚染源がある可能性は否定できないと考えられる。

 嘉手納基地が水源を汚染しているPFAS汚染の問題についてはEPAの現在の生涯健康勧告値を基準として沖縄県企業局が北谷浄水場に活性炭フィルターを設置するという措置をとっている。供給する水道水に関しては、現在のEPAの生涯健康勧告値を目安にし、水質管理をしている状態である。

 一方、普天間基地周りのPFASに汚染された水に関しては、特に処理は施されておらず、湧水から生活・生産圏に流れ込み、汚染発覚前と同様に、飲用以外には使用が継続されているのが実情である。 最高濃度のPFOS/PFOAの合計値2000ng/Lが検出されているチュンナガーでは、湧水がポンプアップされ、家庭菜園の散水等も含む飲料以外の用途で簡易水道に使用されている。また、大山湿地の湧水は、田芋等の農業用水として使用されている。
 沖縄県の市民への案内に関する対策は、地元自治会を通して「飲料に用いないように周知をお願い」しているのみである。看板等で注意は促されていない。この周知の責任の問題に関しては、市民が個別に働きかけ、宜野湾市議会でも質疑がされているが、具体策の実現に至っていない。この件に関しては、市民からも迅速な行動を促す指摘がされている(巻末資料参考)[5]

 

3. 沖縄県の調査報告の問題

 上記のような沖縄県や宜野湾市の措置は適正な措置なのだろうか。
 ここでは、(1)沖縄県のウェブサイトでの調査報告における案内、(2)農産物への湧水の利用に関する県の調査と評価について検証する。

(1)沖縄県の案内:「人への影響はよく分かっていないことから」?

 沖縄県は飲料禁止の理由を、2017年度PFOS/PFOAの冬季調査結果においては、「PFOS等については国内では基準等がなく、直接飲用に用いない限りは人の健康に問題はないので、昨年度に引き続き宜野湾市及び地元自治会を通して地域住民に周知をお願いしているところ」と案内していた[6]。何を周知しているのかもわからず、日本語としても分かりづらい。また、「直接飲用に用いない限りは人の健康に問題はない」といいきる市民への案内は、現在の国際的な研究動向のどの部分に依拠しているか、疑問を持たざるを得ない案内であった。

 その後、2018年度夏季調査では、この部分が「PFOS及びPFOAについては国内では基準などがないが、蓄積性があること、人への影響はよく分かっていないことから、直接飲用に用いないよう昨年度に引き続き宜野湾市及び地元自治会を通して地域住民に周知をお願いしているところ」と変わっている[7]

 ここでは、「直接飲用に用いないよう」お願いする理由として、「蓄積性があること」(環境中か生体内かについては不明であるが)と「人への影響はよく分かっていないこと」を挙げている。PFASの蓄積性の性質については、科学的に根拠があり、PFAS汚染に関心のある人々にとっては常識である。しかし、「人への影響はよく分かっていない」という説明は何を根拠に書いているのか、これも前回までの案内同様、疑問が生じる。これは現在のPFASに関する研究状況を把握していなくては書けない部分である。「人への影響はよく分かっていない」という書き方は、まだ研究の蓄積がなく、わかっている部分が少ないような印象をもたせる。

 しかし、それは現在の研究状況とは異なっている。例えば、Elsie M. Sunderland 氏(ハーバード公衆衛生大学院、環境健康部)他の2018年の論文”A review of the pathways of human exposure to poly-and perflluoroalkyl substances(PFASs) and present understanding of health effects”(「人のPFASへの曝露経路と健康への影響の現時点での理解のレビュー」、Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology(『曝露化学と環境疫学誌』掲載)[8]は、既存の研究をレビューしたものである。これをみるだけでも「人への影響はよく分かっていない」とはいえないだろう。このレビュー論文では、人体への悪影響についての研究が蓄積されていることが整理されており、PFASへの曝露と人への悪影響について、現時点で、明らかになっている部分と、限定的といえる部分について、理解ができるようになっている。未解明の部分はあっても、影響についてはわかっていないわけではない。同論文では、PFASの曝露と子どもの免疫の疾病や、代謝の疾病としての脂質異常症の因果関係等にも触れられている。このような研究状況を把握し、人への影響も疫学的にも明らかになっている実態を正しく理解し、その実態を反映させたものを県民に知らせるべきであろう。 

 沖縄県は、調査結果の最後に、以下のような案内も載せている(強調の囲み線もそのまま引用)。
 これはEPAの70ng/L生涯健康勧告値の説明である。これを読むと、飲んでも大丈夫であろう、という印象を与えるような懸念が生じる。しかし、この数値には米国でも既に多くの科学者が疑義を唱えていることは、IPPもこれまで情報提供してきた[9]

 ここで重要なのは、有機フッ素化合物汚染の問題に対峙する際に、どのような姿勢で扱っていくかということである。

 PFAS汚染に関しては、研究者や政策提言グループは、曝露の経路が水からだけではなく、様々な経路があり、PFASへの曝露をトータルにとらえることの重要性を啓蒙している【図2】。さらに、PFOS、PFOAという2種類の汚染だけでなく、その代替物としても用いられている他のPFASの存在やその毒性を踏まえ、PFASを同性質の部類(class)としてとらえることの必要性が強調されている。水からの摂取が曝露の回路ではない、有機フッ素化合物はPFOS、PFOAという2種だけではない、限定して考えずにトータルで考え、曝露を最小限に抑えよ、という科学者からの警告は、米国で実施されているセミナーで繰り返し共有されていることであり、先進的な州では、既に政策に反映させる動きがみられる(これに関しては4.で後述)。

【図2】 職業上の背景がある以外での、様々な人へのPFASの曝露経路の概観図(Fig.1 Overview of  PFAS exposure pathways for different human populations outside of occupational settings, Elsie, M. Sunderland et al, 2018.)

 上述のレビュー論文でも、PFOS、PFOAへの対処が遅れ、それが人への曝露と、それにより生じるリスクが広がってしまった、という過去の負の歴史を科学者が認識していることを読むことができる。また、その経験からの教訓として、新たに市場に進出しているPFASでそのようなことを繰り返すべきではない、ということが、科学者のスタンスとして述べられている。そこから、データが限られていることを、代替物として使われているPFASのリスク回避を遅らせる理由づけにするべきではない、ということも強調されている。わからないということを理由に対応を遅らせるべきではない、という主張である。

 このように、研究の前線を社会に伝え、研究の社会的影響を考慮した科学者や政策提言者の呼びかけには敏感であるべきであり、その文脈の中で沖縄の状況を把握し、政策に反映するべきであろう。

 沖縄県はこのような研究動向や、過去の教訓を繰り返すまい、という科学者の警告を追えずに、安全に関する案内を安易に出しているように見受けられる。沖縄県衛生環境研究所からも2018年に案内が出ているが、これも同様である[10]

(2) 沖縄県の「農作物」調査と評価の問題

 沖縄県や宜野湾市がこの問題で懸念していることは大山の田芋産業への影響である。いわゆる「風評被害」問題が起こることを気にしていることは、複数の証言からも把握している。「風評被害」という言葉で封じ込めることと、問題の枠組みをそこに限定していること自体も問題であるが、ここでは、沖縄県の調査に焦点を当てる。

 沖縄県は、食品の安全性を確かめ、政策を決定する責任がある。生産者や消費者が納得する科学的調査を実施し、妥当な政策を立案することがそこでは求められる。
 沖縄県環境部は2016年に実施した最初の調査において、大山の湧水で高濃度のPFOS/PFOAが検出されたため、「農作物」(=田芋)の調査を実施し、その結果をもって安全を保証している。また、宜野湾市の政策も、沖縄県のその調査に依拠している。 

 では、沖縄県のこの調査は妥当な手順を踏んでいる調査であったのか、安全を保証するに十分な知見はあるのか。

① 「至急」実施された調査

 沖縄県は、2016年12月28日の「沖縄県内における有機フッ素化合物環境中実態調査結果について(中間報告)」(以下、「中間報告」)[11]でその結果を報告し、PFOS等の農作物の影響はないという結論を発表し、生産者は、現在も農業用水として使用している。

 ここでは、上述の沖縄県の農業への湧水の使用の調査について、公開資料と、筆者による情報開示請求や聞き取りで入手した書類により明らかになった事実を記述し、整理する。

 沖縄県は、大山の農作物の調査の経緯について上述の「中間報告」の報告案内で述べている[12]。農作物の調査の実施については「水質調査の結果について公表前に地下水管理者への説明を行ったところ、地下水を利用して栽培する農作物への影響を心配する意見があり、その意見を踏まえ、地下水の検査結果とあわせて作物中の濃度の測定結果を公表することとし、環境部では至急農作物中の濃度の測定を行った」と記されている。「また、地下水を利用している農作物からは、PFOS等は検出されなかったことから、農作物への影響は無いことが確認された」という結果を公表している。結果については、「別紙3 農作物分析結果」として公表されている[13]

 調査内容をみてみると、上記の県の案内に示されているとおり、当初から計画されている調査項目ではなかった。水質調査の結果で、農業に使用されている湧水から高濃度のPFOS/PFOAが検出されたために、当事者の懸念を考慮して「至急」実施された調査である。筆者が情報開示請求で入手した実施計画書[14]にも、この調査については計画が記述された部分はなく、十分に調査設計がされた調査であるとはいえないようにみえる。どのような時間のスパンで、何をもって農作物の安全を測るか、という議論は、「至急」実施した調査ではできないのではないだろうか。

 この調査では公表資料では「農作物」という記述のみで、具体的に何の作物であるか書かれていない。筆者の県への聞き取りと開示請求により入手した文書には「田芋」を調査したことが示されているが、農作物を特定されたくないかのように、何を調査したかがわからない結果の記述の仕方は科学的でない。誰のための調査なのか、誰のための報告なのか、と疑義が持たれる余地を残すことは、調査報告として問題である。

② 調査地点の選定:公開されない比較対照地点

 調査は4箇所で実施され、調査地点は、「流域1(ウーグムヤーを含む)」「流域2(ヒヤカーガーを含む)「流域3(メンダカリヒージャーガーを含む)「対照区(基地の影響が無い場所で栽培)」であった[15]

 調査地点の選定は、なぜその地点で実施したのかの必然性が必要であり、恣意性が疑われることはあってはならない。また、その調査が妥当かどうか、第3者が評価できるように、必要な情報を隠すことがあってはならない。

 しかし、県の公開資料では、比較対照地点については「基地の影響が無い場所で栽培」と記してあるのみで、地名が書いておらず、筆者が情報開示請求で入手した調査報告[16]にも書かれていなかった。正確な調査地点が書いてあるものはどこにあるのか、と沖縄県環境保全課に問い合わせたところ、担当者の手元に地名が鉛筆で書いてある書類があるとのことであった。なぜ調査地点を隠すのかを電話で問うと、“何かでた時の影響”を考えて調査地点を公開しないことにしたという回答であった。影響があったことを考えて調査地点を公表しない、ということは、調査に恣意的なものが働いていると判断されてもやむを得ない。調査としても問題であるだけでなく、調査地点が担当者の手元の鉛筆書きのみで残され、それが公文書として公開されないということは記録の隠蔽であり、また、公的文書として保存されない可能性があるという、公文書としての記録、管理の問題としても問題である。

 また、調査地点の選択理由については、県の公開資料および筆者による情報開示請求で入手した書類にも記されていなかった。筆者による環境保全課への聞き取りによると、県と田芋組合を含む「地元」から、湧水の量の多い地点と、湧水を使用している農家が多い地点を聞き取り、その結果、地点を選択したとのことであった。この「量」と使用している農家の選択の根拠を示す文書はないとのことであった。

 宜野湾の湧水、また湧水の量を示す調査は宜野湾市の『平成18年度宜野湾市自然環境調査報告書』があるが、湧水の量が多く、農業用水を用いているアラナキガーが調査地点に入っていないことなど、疑問をもたれる部分がある。

③ 「農作物」=田芋の調査方法

 上述のとおり、農作物が「田芋」であることは、筆者が開示請求により入手した食品分析センターの書類[17]には記載されていた。

 その調査方法については記されていなかったので、県の環境保全課に聞き取りをしたところによると、1地点5個の田芋を農家に提供してもらい、それらを環境保全課から沖縄県衛生研究所に届け、そこから分析会社(食品分析センター)に分析を依頼したということである。5個の田芋の可食部を1つにまとめて検体とし、それが1区域の検体の調査結果として示されているということであった。

 開示請求によって入手した書類には、1地点でのサンプル数についても、調査方法についても記されていなかった。また、PFOS/PFOA分析をした「食品分析センター」の書類には、検体採取日や時刻、採取場所、検体担当者氏名、所属が、同じく実施された水質調査には記されている一方、農作物の調査の文書には記されていなかった【図3、4】。これは調査記録として不備である。 

【図3】水質調査の分析試験成績書。検体採取時の時刻、場所、採取者情報が記されている。

【図4】田芋調査の分析試験成績書。検体採取時の情報が記されていない。

④ 安全性の根拠とする論文の不正確な引用

 沖縄県は、上記調査の結果を示し、関係論文の引用することにより、農作物の安全を保証しようとした。この作業には、関係論文の理解と、自身が実施した調査との関係を明確にすることが必要である。では、沖縄県はその必要な作業ができているのだろうか。 

 県は上記調査の結果を踏まえ、「中間報告」で以下のように論文を引用し、農作物の安全を保証している。

 「【PFOS・PFOAの農作物への影響について】ドイツヘッセン州立研究所で、PFOS・PFOA汚染した土壌から農作物への移行について実験を行った研究があり、その中ではトウモロコシ、ジャガイモ、小麦などの可食部への移行はほとんど無かったとの報告となっているため、農作物への影響は無いと考えられる。」

 しかし、依拠した論文名を記していないために、この論文が結論を導くのに妥当なものであるかどうか、引用が正しく行われているかの検証を第3者ができない。このような報告の仕方自体が問題であることを、まず指摘しておきたい。

 そのため、筆者が論文を探し、その論文が”Carryover of Perfluorooctanoic Acid (PFOA) and Perfluorooctane Sulfonate (PFOS) from Soil to Plants”(Stahl T1, Heyn J, Thiele H, Hüther J, Failing K, Georgii S, Brunn H. Archives of Environmental Contamination and Toxicology57(2): 289-98, August 2009)[18]であることを環境保全課に確認した。

 では、県はこの論文を理解し、県の調査結果、および評価の裏付けとするのに適切な論文であることを示しているのか。また、県自体の調査と論文の関係性を明確にし、安全性を保証する根拠を示せることができているのか。
 結論を先取りしていえば、沖縄県は、論文の主旨を正確に読めておらず、不正確な引用をし、論文を曲解して用いているということがわかった。

 依拠する論文の選択や、引用の妥当性については、当該分野でどのような先行研究があり、その論文はどのような位置づけにあるか、ということを理解しなければならない。

 県が使用した論文は、土壌のPFC(有機フッ素化合物、この実験ではPFOAとPFOS)の農作物への移行が起こりうるかを実験し、調査結果をまとめたものである。この実験は、人のPFCsの摂取の主要な原因が、飲料水と食物を通じてのものであることを踏まえ、人のPFCの食物による摂取が食物連鎖のどこで起こるのか、その入り口に着目して実施された。

 同論文で立てられた問いは、食物が直接、人に、また/あるいは、家畜の飼料から間接的に人体を汚染する原因になるのか、またどのような濃度でそれが起こるのか、というものである。その問いに基づき、PFOS、PFOAの異なる濃度の土壌の鉢で、トウモロコシ(Maize)、エンバク(Oats)、ホソムギ(Perennial Ryegrass)、ジャガイモ(potato)、小麦(spring wheat)を栽培し、土壌からのPFOS、PFOAの移行を観察する実験を実施している。植物中にPFOAとPFOSが存在しているかを決める手法については、論文中に挙げられている、PFOSの先行研究の中で用いられている“Bossi et al. 2005”の研究で用いられている手法を採用している。なお、沖縄県が田芋の調査において同方法を採用したかについては、定かではない。

この実験により得た結果と論点として、以下の3点が挙げられている。
(1)視覚的に確認できる異常性
 土壌においてPFCの量が多いほど、植物に視覚的に異常が確認される傾向がある。変色、壊死、成長が減退する植物がある。
(2)PFOA/PFOSの土壌中の量と作物の収量への影響
 土壌中の量が多いと収量が減少する植物がある。
(3)作物中のPFOA/PFOSの濃度
 それぞれの植物で可食部分と非可食部分の濃度の差がある。

  結論としては、土壌から植物へのPFCsの移行において、濃度依存性がある、つまり、土壌に加えたPFOA/PFOSの濃度が高いほど、作物中から検出されるPFCの濃度が高いということが明らかになったことが、まず記されている。また、低い濃度でもPFOA/PFOSの移行は起こることも述べられている、

 県は同論文を引用し、“トウモロコシ、ジャガイモ、小麦などの可食部への移行はほとんど無かったとの報告となっている”と記述しているが、県の記述と同じ内容が同論文にはみられない。各植物の調査結果の表を見ても、可食部よりも非可食部の方がPFOA/PFOSが検出さることは確認できるが、可食部への移行がほとんど無い、という記述はない。県は、同論文の結論部分にある、PFOA/PFOSの吸収・貯蔵が、植物の中で貯蔵部分に移行するよりも、生長部分でより集約的に起こる、それが、小麦、エンバク、トウモロコシにおける穎果[可食部]と穂[非可食部]間で、最も顕著に証明され、また、ジャガイモの塊茎と皮間でもその違いがみられた、という結論部分を、読み間違えているのではないか、と考えられる。結論の部分でも、植物のどこの部分で移行、貯蔵がされるのかの比較をしており、可食部への移行がなかった、という結論づけはしていない。

 このような、間違った引用がされているのは、同論文の論調や、研究領域における同論文の位置づけを、県が理解していないことからくるものではないか、ということが考えられる。つまり、県は、同論文が何を問題意識とし、何を目指しているか、ということを理解していないのではないか。繰り返しになるが、同論文はPFAS汚染の曝露の研究領域において、食べ物や人体にPFCsが存在することの根拠を探求する研究であると位置づけられる。

 同論文の結論は、以下のように述べられている。
 ”要約すると、この実験条件下では、この2つの両親媒性の[水性溶媒にも油性溶媒にも親和性のある]PFOAとPFOSは、程度は異なるが、土壌から植物に吸収される可能性があるといえる。この実験で選ばれた植物は飼料および人間の食物となっている。もしこれらがPFOAあるいはPFOSに汚染された土壌で成長した場合は、PFCsは植物を通して、濃度依存的に食物連鎖の中に入っていく。この実験結果は、食べ物、そして結果的に、血液、血漿、血清や母乳といった人体の体液に、[なぜ/どのように]PFCsが存在するかについて、一つの可能な説明を示している。”

 このように、同論文は、人体にPFCsが存在することや、その経路に着目し、実験研究を行い、汚染された土で育てられた植物がその入り口であることを示唆している論文である。それにも関わらず、県の記述である「可食部への移行はほどんど無かったとの報告となっているため、農作物への影響は無いと考えられる」という部分は、この論文の論調と、ほとんど正反対の印象づけを行っているように読める。

 この解釈に関する報道記事で、県は「そのままの記述はないが、ジャガイモであれば皮の方に汚染がいくという図表を見て解釈した」という弁解をした[19]。記者の取材により、県は、一図表という部分から間違った結論づけをしたこと、それが県の説明にたりうるという姿勢であることが明らかになったといえよう。この弁明からは、田芋は地元では皮も食用に用いているという事実を県が把握していたかも疑われるところである。

 また、県の調査と同論文の関係についても、沖縄県の調査は、湧水の水質調査と田芋を調査し、土壌は調査していないが、依拠する論文は土壌の汚染濃度と農作物の濃度の調査である。また、どの農作物と田芋が同等であるとみなしたかも不明である。前述の記事において、県はジャガイモを田芋に匹敵する農作物としているように読めるが、それに関しても定かでない。この部分からの県の判断の妥当性に関しては、筆者の判断領域にないため、専門家の意見がまた別に必要であろう。

 このように、安全宣言の一部として用いた県の論文の読み方には問題がある。この論文の趣旨を理解できていないのか、論文を読めていないのか、あるいは結論にあわせるために恣意的に曲解して伝えているのか――いずれにしても、問題である。このような引用の仕方は、論文の著者に対しての冒涜であり、看過できるものではない。

 これは、結果的に、間違った情報を市民に与えたこととなる。正しい情報があって初めて市民は判断ができる。また、市民が論文を検証することを全く想定しない、つまり「誰も読まないであろう」という姿勢での報告は、市民や当事者である生産者に不誠実である。

 結論として、拙速で過程も不透明な非科学的な調査と、論文の不正確な引用による評価に依拠した大山の「農作物」の、県による安全性の評価は、信頼できるものとはいえない。

⑤ 米国専門家の提言

 筆者は、米国の専門家であれば、この問題にどのような助言をするか、専門家であるミシガン州立大学のコートニー・カリグナン博士にメールで問い合わせをした。ミシガン州は、PFASの影響を受けた州であり、汚染に関する経験値が高い地域である。博士は市民への啓蒙活動も行っており、コミュニティへの理解も深い。

 博士には、沖縄県が田芋の調査を1回しか実施せず、モニタリングを行っていないのでさらなる調査が必要ではないかということ、また、土壌から農作物のPFOS/PFOAの移行に関する上記論文を、農作物の安全を保証するものとして依拠しながら、土壌の調査は実施していないことについて疑問を持ったことを述べた。博士からは、“土壌と作物の調査の要求は理に適っています。あなたの懸念は、PFASの影響を受けた、増加するコミュニティと共鳴するにつれ、数年すればより知られるようになると思われます。カナダのAxys Environmental[20]は、植物のPFAS分析を請け負う研究所です(有料)”との助言を受けた。

 専門家の助言からも、筆者の懸念は妥当なものであると考えられる。安全性を保証するためには、長期的でより専門性の高い調査が必要であるといえる。

 

4. 家庭菜園・農業用水とPFAS汚染:米国の州の対応

 最後に、PFASに汚染された水を家庭菜園や農業に使うことの判断基準のために、米国のPFAS汚染の影響を受けた地域がどのように対処しているかについて、情報提供する。

 米国は、トランプ政権下である影響もあり、PFASを規制する連邦法制定に環境保護庁(EPA)が消極的であり、人々は懸念や苛立ちを隠さない状況にある。EPAは、市民や環境団体、連邦議員から、PFASの早急な規制を求められていたにも関わらず、2019年2月14日に発表した政策は、PFOSとPFOAの2種類のみの規制の「プロセスを開始」というものであった。発表されたあまりにも悠長な「アクション・プラン」[21]に対し、専門家や、市民、NGOはその姿勢を強く批判している[22]

 一方、PFAS汚染の影響を受けた地域や市民は、危機感を持って独自の動きを見せてきた。2019年1月にはバーモント州や、マサチューセッツ州が飲料水のPFASの最大許容濃度(Maximum Contaminant Level、MCL)の設置のために動くことが決定された[23]。2月にはミシガン州で、PFASの常設の対応チームを置く州知事命令が出され[24]、4月には、5種類のPFASの勧告値設定や(PFOA :9ng/L, PFOS: 8ng/L, PFNA:9ng/L, PFHxS: 84ng/L, PFBS: 1000ng/L)、飲料水に用いられる地下水の浄化基準の設定に動き、MCLの設置へのタイムラインを示すまでに至っている[25]。5種以外のPFASも射程に置き、2020年のMCL設定を目指している。また、3月にはニュージャージー州環境保護部は、PFASの汚染源である製品を生産した3Mやデュポン等の5化学企業に、汚染対処に関する説明責任と財政責任を求める命令を出している[26]。さらにこの4月、ニュージャージー州は、MCLを州の安全飲料水法でPFOSを13ng/L, PFOAを14ng/Lとする法案を発表している[27]

 この各州の採る政策が、実際に被害を受けている沖縄が参考にするものであろう。米国も日本も政府の政策が、世界保健機関(WHO)等の国際機関の動きがないと動かず、特定の地域の被害を救済する方向に早急に動くことはないのが現状であるからだ。ミシガン州知事も「もはやトランプ政権の動きを待つことはできない」と、連邦法での規制を見限っている。

 飲料水以外の使用に関しては、IPPのこれまでの提言書の中でも、米国でPFAS汚染の影響を受けた地域の例を参考例に引いてきた。例えば、米軍基地、工場施設という複数のPFASの汚染源を抱えるバーモント州である。同州では、5種類のPFAS(PFOA、PFOS、PFHxS、PFHpA, PFNA)の合計値の勧告値は、飲料水で20pptを超えるべきではないという独自の健康勧告値を設定しており、PFASが20pptを超えた水を庭の散水に使わないことを勧めてきた。また、PFASが野菜に吸収される可能性があることも、市民への案内には記述されている[28]

 上述の、米国の専門家、コートニー・カリグナン博士(ミシガン州立大学准教授)に、普天間基地周辺のPFASで汚染されている水の利用についての相談をしたところ、”植物はPFAS(有機フッ素化合物)を吸収することがわかっており、飲料水がPFASに汚染されているミシガンのコミュニティでは、みなさんに有用と思われる予防的助言を行っています”と、ミシガン州の例を紹介された[29]

 ミシガン州ではまだ研究が十分でないことを述べながら、以下のように市民へ案内をしている。

“PFASに汚染された土や水で育つ植物に蓄積する可能性のあるPFASの量を数量化するためには、また、安全レベルの基準を決めるためには、より多くの研究が必要です。人々は多くの種類の食物を食べるので、PFASに汚染された土や水で育てられた作物を時折消費することから生じるリスクは、低いように考えられます。しかし、このような化学物質は体内に蓄積される可能性があり、人は多くの原因から化学物質に晒される可能性があるので、できるだけこれまでわかっているPFASの曝露については避ける、あるいは最小化することが提唱されます。

もし、あなたのところの水がPFASを含んでいるかどうかが心配ならば、あなたの地域の水源についての情報を得るため、ミシガン州環境アシスタンスセンター800-662-9278にコンタクトすることができます。その間、庭では、雨水、フィルターで処理された水、あるいは他の安全な水源からの水を使ってください。他の選択肢としては、苗木と園芸植物には、成長時の季節を通して、きれいな水を使い、新しい、きれいな土で上げ床の花壇に庭をつくることがあげられます。収穫後はきれいな水で作物を洗いましょう。食べる前に根菜は皮をむき、洗うことを勧めます。“

 

 「まだわからない」「汚染するリスクが低いように考えられる」から、放置するのではない。「まだわからない」が/ゆえに、多くの経路での曝露の可能性を鑑み、曝露の最小化を促している。

 また、事業者の従業員、顧客への水に関する対応についても、「PFASが検出されない場合と10ppt以下の場合」「PFOSとPFOAの合計値が10ppt以上で70ppt以下の場合、あるいは検査されたPFASの合計値が10pptを超えた場合」「PFOAとPFOSが70ppt以上の場合」と汚染の深刻度により細かく対応を分け、具体的な指示を出している。

 

 他に紹介された例の1つとしてウィスコンシン州の例がある。同州では、毒物学者の文書で以下のような記述がある[30]

”地下水のPFAS濃度よりもわずかに高い濃度を示す植物もあります。多くの他の植物は水からはほとんどPFASを吸い上げません。概して、今ある研究では大半の庭の植物は主要な曝露の原因ではないことが示されていますが、曝露が全くないということはいえません。

少量の曝露でも避けるためには、健康サービス部はMainetteLimitsPeshtigo町内の(PFASの)影響を受けた地域は、EPAの健康勧告値70ppt以上のPFASを含んだ水は庭に使用しないことを人々に推奨しています。プールのような飲料に使用しない水の使用に関しては、70pptは許容できるでしょう。もし井戸が70ppt以上であれば、助言するので連絡してください。(太字は原文)

 

 バーモント州、ミシガン州、ウィスコンシン州いずれも専門家の科学的な知見を裏付けとする市民への案内である。概して、PFASに汚染されている水は庭への散水の使用を控えることを推奨しており、予防原則的なスタンスをとっているといえる。

  他にも、カリグナン博士から米国以外の例で紹介された例としては、2017年、オランダ、ドルドレヒトで、毒物学者が、工場によるPFAS汚染のため、家庭菜園での野菜や果樹の食用中止を呼びかけた事例がある[31]。毒物学者による調査により、PFOAとPFOAの代替物として用いられているGenXという新たなPFASが高濃度で工場周囲の植物から検出され、汚染されていることが明らかになった。これは、2012年以前に使用されていたPFOAの蓄積された汚染と、代替物の有機フッ素化合物であるGenXの両方の汚染が存在し、それが土壌と植物から検出されているという、有機フッ素化合物の汚染問題の性質がよくわかる事例である。植物の汚染に関して、この記事では、毒物学者のMartin van den Bergは「植物は、根を通して汚染された水を吸収するので、毒物は葉だけでなく、作物全体に存在します」と述べている。これについては、既に論文となって発表されており、PFASの植物吸収の先行研究の状況も把握できるので参照されたい[32]

 上記の米国の事例の情報は、和訳を付属資料としてつけるので、参考にしてもらいたい。

 

5. むすび

 これまで述べてきた県の調査や分析・評価の不備は、技術的なものだけではなく、汚染に対する問題への取り組みの根幹となる、いわば行政「哲学」の部分に由来するものと考える。化学物質の問題は、早期にその害が警告されていても、行動の遅れが被害を広げた歴史があり、PFAS汚染も既にそれが繰り返されている。科学の常識や、研究、および研究者に対する敬意という姿勢が欠けた上に、PFAS汚染の本質や、国際的に何が議論されているかを知らずに、県民の健康や安全に関わる、深刻な汚染に対処していくことはできないし、県民の信頼も得られない。

 また、これは米軍基地に由来する環境問題である。日米政府といういわば2重の基地問題の悪行政下にある地域で、地域行政がどのような姿勢で住民を守るのか、という側面も行政の「哲学」には必要である。地域の財産である、喜友名泉、喜友名区の簡易水道、大山の湧水についても、この行政の「哲学」の上で、いかに問題に対処するかを宜野湾市とともに考えるべきである。「風評被害」という言葉を用いて思考を停止しさせ、問題を限定させていくことが、何を意味するのか、その行政の「哲学」の中で考えることが必要であろう。大切なものを守りたいならば、適当で安易な結論づけをしてはいけないという、基本的な部分の話である。

 PFAS汚染は、米国のPFAS汚染の被害を受けたコミュニティは、危機感を持って対処している。沖縄も米軍の泡消火剤が1970年代から用いられていることを考えれば、同様の危機感があってしかるべきである。有害物質の汚染問題は、問題の発生、汚染者の認識と、市民の認識には長い時間的な隔たりがある。PFAS汚染に関していえば、化学企業と軍の癒着による長期間の隠蔽の結果、対策が遅れて被害が拡がった。PFOS、PFOA以外のPFASだけでなく、他にも後から報告される有害物質の存在の可能性も憂慮される。実際に、ロケット燃料や弾薬に用いられる過塩素酸塩(perchlorate, パークロレイト)が、PFOS、PFOAと同様に米軍の新規の汚染物質のリストに掲載されており、水質汚染を引き起こしている。このようなまだ認識されない有害物質の実態も、沖縄県は考慮に入れる必要がある。

 その上で、この地域で、現在必要な調査は何かを再度検討し、汚染範囲の確定や、農作物のモニタリングも含めた包括的な調査等の汚染の実態の把握と対処を早急に、県庁全体で検討することが必要であると考える。米軍の泡消火剤の処分、代替物の有機フッ素化合物など、未着手の問題もある。普天間基地の跡地利用政策も、汚染なき土地が前提として未来志向の政策が展開されているが、その政策の見直しも見据えて作業の設計をするべきであろう。

 対米軍交渉問題からも、このような体制の立て直しは必要であると考える。沖縄県が米軍に杜撰な回答をされているのは、これまで述べてきたような県の基本姿勢や情報収集能力が見透かされていることも一因であろう。沖縄県の米軍基地関係の行政に関しては、別途包括的な評価が必要であるが、実施されてきた事業が、県の実務能力をアップさせていないことが、このPFAS汚染の事例で明らかになったともいえる。まずは現実に発生し、直面している事例で、県の本気度を見せることができなければ、日米地位協定改正の要求もただの掛け声にすぎないと認識されるだろう。地位協定の比較の時期は終わっている。現実に迫る問題の中で、その不合理性を公に訴えなければ、沖縄県の基地政策は本末転倒である。

 部分に現れた沖縄県の汚染に対する姿勢を自身でも検証し、あらゆる視点からの沖縄県のPFAS汚染対策の早急の立て直しを求めて、この意見書の結びとする。 

                             以上。

この件に関する問い合わせ先:
 The Informed-Public Project 代表 河村 雅美
 director@ipp.okinawa
 ウェブサイト:http://ipp.okinawa/ 

 

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