世界自然遺産 米軍との「合意文書」黒塗りに

「奄美大島・徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産の登録の中で、沖縄島北部、やんばるの世界自然遺産については、登録後も問題が指摘 されてきました。

1回目、世界自然遺産への登録が叶わなかった主要な原因は、日本政府が北部訓練場や返還跡地の米軍問題を政治問題として忌避したため、推薦地の境界線(Boundaries)が、登録の基準に満たないと国際自然保護連合(IUCN)が判断したからでした。
再挑戦の推薦では、日本政府は課題を克服すべく、米軍との協力体制を推薦書に書き込み、念願の登録を果たしました。
しかし、本当にその課題は克服されたのかーー日米の協力体制は、ただユネスコやIUCNを説得するための表面的な策でなく、実質を伴うものになっているか、と市民団体や現地で調査をする市民から問題提起がされ続けています。これまで環境面で問題の多い日米関係で、世界自然遺産という国際社会の基準を満たすために、どのような関係を築き、どのような政策をとるのかが重要な問題と考えられているからです。両政府には当然のことながら透明性と、国際社会への説明責任が求められます。

 The Informed-Public Projectは、市民団体が全面開示を要請し続けてきた2019年の推薦書に掲載されている米軍との協力文書について、情報開示請求の手段で追及しました。ここでも不開示が示され、文書の正統性には更に疑念が深まったといえる結果でした。

 調査結果は琉球新報で報道されました。
「世界遺産推薦巡る日米合意文書で黒塗り 沖縄・北部訓練場での協力体制」(2022年3月23日)

調査結果を受けて、問題の背景、経緯、提言について以下、記します。

要約
・これまで全体が公開されていなかった日本政府(環境省)による世界自然遺産登録への(再挑戦時の)推薦書の付属資料「『奄美大島・徳之島、沖縄島北部及び西表島』の世界自然遺産への推薦について米軍との合意文書」(以下、「合意文書」)をIPPが情報公開請求したところ、1ページ目が不開示(黒塗り)となった。 

・この「合意文書」は、登録のための課題であった「北部訓練場における米国政府と日本政府の協力体制」を保証する最も重要な文書である。しかしこの部分不開示により、「合意文書」の効力や意味付けを示す要素(日米双方の署名者、合意文書日付、有効期間等)が示されず、同文書が日米政府の協力体制を担保するものかどうかの信ぴょう性に改めて疑念が生じることとなった。 

・環境省は、世界自然遺産のための米軍との協力体制の保証となる文書を、世界自然遺産の精神にそうためにも、自然保護の目的を達成するためにも無条件で公開すべきである。

経緯
 2017年、環境省は世界自然遺産登録の第1回目の推薦をしたが、2018年「登録延期」の結果となり、登録が叶わなかった。推薦書で米軍問題(北部訓練場、及び返還跡地の問題)を政治的問題として忌避したことが主な原因の一つであった。

 2019年の2回目の再挑戦時の推薦書では、課題克服のため、「北部訓練場の自然環境保全に関する米側との協力」(推薦書 227-228ページ)を以下のように記している。

 “特に、世界遺産の推薦に係る取組については、環境省は在日米軍に対して適宜情報提供を行ってきており、日米間で公式に作成した文書(付属資料5-53)のとおり、・・・” 

 環境省はこの文書を推薦書で「『奄美大島・徳之島、沖縄島北部及び西表島』の世界自然遺産への推薦について米軍との合意文書」と呼んでおり、英文は”Document Concerning Cooperation with the United States Government in Northern Training Area” の名称で掲載されている。

 しかし、推薦書内では「合意文書」の原文写しという形では掲載されておらず、合意内容(?)の抜粋のみとなっている。そのため、「合意文書」の効力や意味付けを示す要素(日米双方の署名者、合意文書日付、有効期間等)が示されず、文書の正統性が確認できない。

 これについて環境団体が問題視し、環境省に公開を要求していたが応じてこなかった。環境団体は、この問題を重要視し、ユネスコ、国際自然保護連合(IUCN)へ提出した書簡で、この件を「世界遺産条約履行のための運用指針」 (2021年)の運用基準を損なわせているものであると指摘している。 

 The Informed-Public Projectによる情報開示請求
 このような事態を受け、IPPは、原文を環境省、外務省に情報公開請求した。  

①環境省
環境省の開示過程と結果については以下のとおりである。
-2021年11月21日請求
-2021年12月21日開示 【環境省開示決定通知書】

「奄美大島・徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産への推薦について米軍との合意文書」

部分開示(1ページ目不開示)【環境省開示文書】

 不開示理由「合意文書のP1については、公としないことを前提とした米国との協議に関する情報であり、公にすることにより、米国との信頼関係が損なわれるおそれ及び米国との交渉上不利益を被るおそれがあり、法第5条第3号に該当するため、不開示とします」 


 環境省の開示請求では、推薦書での掲載内容以上のものは、開示されなかった。

②外務省
外務省への開示請求では、同「合意文書」が日米地位協定の何条の合意文書かがわかる文書も請求した。
外務省への開示過程と結果については以下のとおりである。
-2021年11月24日受付 
-2021年12月24日開示 【外務省開示決定通知書】

外務省では、対象行政文書名が特定の上の開示であり、「環境分科委員会覚書及び報告等」の文書名が示された。

開示された文書は、部分開示で、1ページ目が不開示であり、不開示理由も環境省と同じ理由であった【外務省開示文書】

また、「合意文書」が日米地位協定の何条の合意文書かがわかる文書については、不存在による不開示であった。

明らかになったこと
1)情報開示請求でも不開示
「合意文書」で文書の正統性を示す部分は情報開示請求の手段を用いても、環境省、外務省からも不開示となった。理由は、両省とも、「米国との信頼関係が損なわれるおそれ及び米国との交渉上不利益を被るおそれがあり、法第5条第3号に該当するため」との理由であった。

2) 外務省への開示請求
外務省への開示請求で、対象文書名称は「環境分科委員会覚書及び報告等」であることがわかった。

この文書名から、文書は「環境分科委員会覚書」と「報告等」で構成されており、開示された部分は「報告等」の部分である可能性も示唆される。

また、正式文書名が「覚書」という名称であり、環境省が推薦書で用いている「合意文書」という名称とも異なる。推薦書に示されている英文名も上述のとおり”Document…”となっており、「合意文書」の英文名称にはなっていない。

いずれにせよ、推薦書で示されていた部分(開示部分)が文書の中でどのような構成要素なのかが不明であり、「合意文書」の効力や意味付けを示す要素(日米双方の署名者、合意文書日付、有効期間等)が示されず、同文書が日米政府の協力体制を担保するものかどうかの信ぴょう性に改めて疑念が生じることとなった。

参照として、IPPが別件で外務省から入手している通報に関する合同委員会宛のMemorandumを公開する。ここには、日付、署名などの文書としての正統性が示されている【MOFA開示文書】

日米地位協定のどの条項に関連づけられた「合意文書」であるかを示す文書は不存在であり、この部分も不明のままであった[1]

結論として、情報開示請求に対して、部分開示にすることにより、推薦書に示されている日米の協力体制を担保する文書の信憑性はより疑念を持たれることとなった。

提言

環境省は、世界自然遺産のための米軍との協力体制の保証となる文書を、透明性を保持するために、無条件で公開すべきである。


[1] 以下を参考:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)及び関連情報
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index.html

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