知事訪米についての要請・提言を沖縄県に提出 

沖縄県知事が9月5日から訪米することが報道されています。
The Informed-Public Projectでは、これまでの県知事訪米や国連訪問で用いた書簡や資料を開示請求で収集し、検証・分析をしてきました。その結果、国際社会のスタンダードである文書主義・記録主義が徹底されていないことがわかりました。
その検証を踏まえ、改善のために、以下の要請・提言書を提出しました。

県内紙で報道されました。
「文書主義の徹底 市民団体が要請 来月の知事訪米向け」(琉球新報、2024年8月29日)
「知事訪米の書簡 県に作成求める IPPが提言書提出」(沖縄タイムス, 2024年8月29日)

沖縄県への要請文書

                                      2024年8月27日

沖縄県知事
玉城 康裕殿

                                                        The Informed-Public Project
                                     代表 河村 雅美

           県知事訪米についての要請・提言について

 沖縄県の米軍基地問題や地域外交の取り組みについて感謝申し上げます。

インフォームド・パブリック・プロジェクト(The Informed-Public Project, IPP)は、環境、主に米軍基地に由来する汚染問題の調査・監視・政策提言をする団体です。この9月に予定されている玉城知事の訪米について、IPPやその他の組織でのこれまでの国際社会への働きかけの経験を踏まえて、提言と要請をします。

沖縄県には米軍基地問題があり、日本政府が安全保障を国の専権事項を主張する中、地元社会の声が反映されず、民主主義や人権の尊重が実現されない状態であることを理解しています。ゆえに、沖縄県が独自で、米国や、国際社会への発信をすることが必要であることについて、IPPも支持をする立場です。

私は、前所属の沖縄・生物多様性市民ネットワーク共同代表や国際自然保護連合(IUCN)の生態系委員会委員などの立場から、米国政府や国際社会へ働きかけ、また国際社会への情報発信の形式や発信のスタンダードとは何かについて研究をしてきました。IPPでもPFAS関係の連邦議会の委員会に文書を発信し、連邦議会委員会議事録に正式に記録される実績も積んできました[1]


その過程で確認したことは、国際社会での活動は、徹底した文書主義と記録主義に基づいて展開していくことが必要だということです。論理的な文書によって、相手に明確な意思表示をすること、それが国際社会のスタンダードです。さらには、その文書に支えられた要請交渉の内容を自らきちんと記録し、相手に記録させ、次回に繋げていくことが国際社会の文書主義、記録主義です。その文書主義と記録主義のカルチャーを理解し、それを踏まえた文書や資料作成、発信を考えていくことが訪米だけでなく、地域外交においても必要です。

IPPでは、このような視点から、沖縄県への情報開示請求を通じて、2023年3月の知事訪米や8月の国連訪問時の発信について、資料収集や分析を行いました【資料1】。その結果、沖縄県は、こうした米国訪問や国連訪問等の各機会に特化した文書や書簡を作成し、提出することがなかったことがわかりました。その代わり、既存のパンフレットや、他の宛先のアップデートされていない文書のみの手交など、文書主義に則っていない発信を繰り返しているように見受けられます[2]。これでは効果が期待できないと考えられます。

文書主義の面からみると、現在の沖縄県はこれまでの訪米や国連訪問で、誰に、何を、どのような根拠で要求するか、明確に示した書簡形式の文書がありません。米国や、国際社会のスタンダードに則れば、訪米時には、国務長官、国防長官宛、連邦議会議員、国連訪問では、国連特別報告者等、宛先に適した内容の書簡を作成すべきだと考えます。このような書簡がないと、先方に要請内容の公的な記録が残らず、どのような記録がされているかもわからない危うい状況を生み出すことにもなります。

また、訪米や国連訪問では、単なる直接の面会・面談という機会にとどまらず、「ひとり歩き」していくような文書を作成し、手交するべきであると考えます。訪米時の文書ではありませんが、「ひとり歩き」の好例として、大田知事時代の1996年に米軍による平敷屋原遺跡の文化財破壊に対して発信した県教育長の文書「基地内文化財の調査と保存に関する要請」【資料2】を挙げます。これは大田知事の訪米時に配布した英文の文化財関係のパンフレットとともに在沖米軍からの”Executive Correspondence”として関係機関に配布され、2014年の米軍文書『統合自然・文化資源管理計画』[3]の中で掲載、参照されています。教育長文書では、米国の形式に則った形式で抗議と要請が明確に示されています。

記録主義の点からいうと、上記のような文書が、米国との交渉記録として、また、国連に対する文書作成のための参照文書として蓄積されることの重要性を認識するべきだと考えます。過去の要請や資料を積み重ねながら参照し、それらを反映させ、アップデートした新たな文書を作成していくことが、文書スタイルのスタンダードです。

また、説明責任の面からいえば、国連や米政府との交渉の場合、オープンでない場合も多く、いわゆる記者への「ぶら下がり」取材でしか何を主張したかが市民にも伝わりません。実際に、訪米における報道において、PFASについての報道は大きくされましたが、県の発出した特化した要請書簡がないために、それを確認することができませんでした。要請書簡や資料に基づいた交渉の記録を行い、可能な限り公開することで、県民への訪米等、地域外交の必然性の説明責任を果たすことになります。また、要請文書や交渉の記録を積極的にウェブなどで公開することで、県民や国内・海外の支援者の知事の主張への理解、支援が可能になるようになります。

訪米・国連訪問等の対外行動はこのように、知事の訪問にとどまらない、積み重ねや発信の波及効果まで考慮することが必要だと考えます。

以上の認識から、IPPは、沖縄県には以下を要請します。

1.  国際的なスタンダードに則り、誰に、何を、どのような根拠で要請するかを、明確に示した書簡を作成し、訪米等の対外行動を行うこと。また、それを県民や県外、海外の支援者が活用できるように公開することまでを発信活動とすること。

2.  文書による記録を積み重ねることが、次の発信につながること、地域外交の必然性の説明責任を果たすことを意識し、記録主義を徹底すること。
 

  以上。

本文書に関する連絡先:
河村 雅美 Masami Kawamura, Ph.D 
Director, The Informed-Public Project 
director@ipp.okinawa 
Web: http://ipp.okinawa/

【資料1】訪米・国連訪問の文書

IPPが沖縄県への情報開示請求により入手。
1)知事訪米に関する公文書
①『知事訪米の概要(令和5年3月)』令和4年度沖縄県知事公室 
知事訪米の記録(21ページ)
②“Okinawa Symposium 2023 Keynote Speech Denny Tamaki, Governor of Okinawa, March 9, 2023)
シンポジウムにおける基調講演スライド(33ページ)
③”What Okinawa Wants You to Understand about the U.S. Military”
沖縄の米軍基地関係英文パンフレット (24ページ) 
④”Consolidation and Reduction of the US Military Bases on Okinawa Toward the 50th Anniversary of Reversion of Okinawa to Japan”
(To Mr. Joseph M. Young, Charge d’ Affairs ad interim of the U.S. Embassy in Tokyo,  From Denny Tamaki, Governor of Okinawa, May 27, 2021)
2021年5月のアメリカ大使宛の復帰50周年文書コピー。(29ページ)
⑤”Subtropical Japan Okinawa” (観光関係英文パンフレット) (11ページ)  
⑥お礼状 

2) 国連訪問に関する公文書
①国連でのスピーチ原稿
②講演会で用いたスライド 
 “Human Rights, Autonomy, and Environmental Issues Derived from U.S. Bases)
③国連人権理事会 講演会(サイドイベント)知事講演原稿(案)
④国連訪問概要 (各面談内容概要)
⑤お礼状

【資料2】 沖縄県教育長の文書 
2014年の米軍文書『統合自然・文化資源管理計画』のAppendix H に掲載されている。
※文書の解像度が低いので下記注3のリンクを参照のこと。


[1] Protecting Americans At Risk of PFAS Contamination And Exposure, Hearing before the Subcommittee on Environment and Climate Change of the Committee on Energy and Commerce, House of Representatives One Hundred Sixteenth Congress First Session, May 15, 2019, Serial No. 116-35. https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-116hhrg40554/pdf/CHRG-116hhrg40554.pdf

[2] 国連訪問でも、国連の発展の権利に関する特別報告者スーリヤ・デヴァ氏の面談記録では「スーリヤ氏から『詳細な資料や写真などのデータが必要と考えるならば送っていただきたい。状況について、把握することは必要である。』などの意見をいただきました」と書かれている。

[3] Integrated Natural Resources and Cultural Resources Management Plan (Marine Corps Base Camp Smedley D. Bulter MCIPAC installations, Okinawa, Japan, 2014) .
ジョン・ミッチェル氏の寄贈文書の所収図書館等(沖縄県公文書館等)で見ることができる。ジョージ・ワシントン大学のサイトは以下。https://scholarspace.library.gwu.edu/work/8336h265f

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