沖縄京都PFAS研究チーム:沖縄におけるPFAS血中濃度と心筋梗塞や脳梗塞のリスクに関する研究が国際医学誌に掲載

The Informed-Public Projectの河村も参加している沖縄京都PFAS研究チームからのプレスリリースを以下掲載いたします。

国際医学誌Exposure and Healthに研究成果が掲載

沖縄京都PFAS研究チームは、沖縄本島におけるパーフルオロアルキル物質(PFAS)曝露と健康影響に関する調査結果をまとめた査読付き論文 “Relationships Between Serum Levels of Per‐ and Polyfluoroalkyl Substances and Obesity‐Related Conditions in Patients of Okinawa, Japan”
を、2025年7月7日付で国際医学誌Exposure and Healthに発表しました。
本研究は臨床医をリーダーとして構成されたチームによるもので、日本国内でPFAS血中濃度と心血管リスク指標との関連を本格的に検証した初の報告です。PFAS研究の第一人者である原田浩二氏(京都府立大学)も参加した研究です。

研究の概要

・調査期間・対象:2021年9月〜2022年4月、沖縄本島の大規模プライマリケアクリニックにて外来患者399名の血液検査を実施。
・主な調査内容:PFAS12種の血中濃度と、肥満(BMI)、脂質異常症、高血圧などの臨床指標との関連を統計解析により検証。

主な知見

(1)PFASと心血管疾患リスクの関係
• PFHxSおよびPFOAの高濃度は、善玉コレステロール(HDLC)の低下と統計的に有意な関連を示した。
• PFHxSは脂質異常症の発症リスクを上昇させる可能性が示唆された。
• 一方、PFAS濃度の上昇と肥満(BMI)の間に直接的関連は認められなかった。
HDLCは血管内の余分なコレステロールを肝臓へ運ぶことで動脈硬化を抑制する働きを持つため、本研究の結果は、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患リスクがPFAS曝露により上昇する可能性を示唆している。
従来、肥満や脂質異常症は生活習慣病とされてきたが、本研究によって、環境化学物質の曝露が独立した健康リスクとなり得ることが示された。
(2)PFAS血中濃度の高さ
血中平均濃度の結果は以下のとおりであった。
  ・PFOA:  2.80 ng/mL
  ・PFOS:  7.56 ng/mL
  ・PFHxS: 7.07 ng/mL

PFOAおよびPFOSの血中平均濃度は、過去の日本国内調査と比較して明らかに高値である。とりわけPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸)に関しては、血中平均濃度が7.07 ng/mLに達し、国内平均(0.22 ng/mL)と比べて約30倍であることが判明した。

米国科学アカデミー(NASEM)のガイドラインでは、PFAS血中濃度がPFAS7種(含PFOS、PFOA、PFHxS)で合計2 ng/mLを超える場合に健康リスクが懸念されるとされているが、本研究では対象者全員がこの基準を超過し、約4割が20 ng/mL以上の高リスク群に該当する結果となった。

本研究の意義

本研究は、国内においてPFAS曝露が高い地域の臨床現場から得られた患者データと血中濃度を組み合わせた初の医学的報告であり、国際的にも「高曝露地域の実態把握」という分野に貢献し得る内容である。日本におけるPFASの規制強化および今後の疫学調査の必要性を示す重要なエビデンスであると位置付けられる。

政策提言・今後の課題

・本研究は、PFHxSによるHDLコレステロール低下や脂質異常症との関連が示唆されたことで、現行のPFOS・PFOAのみを対象とする日本の水質規制が不十分であることを明らかにし、PFHxSを含めた複数のPFASを新たに規制対象とすべき重要な根拠を提供している。
・全国的なバイオモニタリング体制が未整備である中、高曝露地域である沖縄や東京・多摩地域などでは血液検査によるPFAS濃度の定期的把握が公的に制度化されるべきであり、米国科学アカデミーや欧州の知見に基づく血中濃度指標の策定も急務である。
・PFASと脂質代謝障害・免疫抑制・甲状腺異常などとの関連について、妊婦や小児、高齢者など感受性の高い集団を含む前向きコホート研究や臨床医との連携調査が求められ、診療ガイドライン整備も視野に入れるべきである。
・こうした疫学調査の知見は、環境省や厚労省の科学的政策形成に反映されるべきであり、地方自治体任せにせず国が主導する形で住民の健康保護と曝露低減の対策に取り組む必要がある。

論文情報

タイトル:Relationships Between Serum Levels of Per‐ and Polyfluoroalkyl Substances and Obesity‐Related Conditions in Patients of Okinawa, Japan
掲載誌:Exposure and Health(Springer Nature)
公開日:2025年7月7日(オンライン)
https://link.springer.com/article/10.1007/s12403-025-00723-2
全文論文PDFはこちら

この研究は高木仁三郎市民科学基金の助成を受けました。

本件に関するお問い合わせ:

徳田安春(医師・医学博士・筑波大学客員教授・群星沖縄臨床研修センター長)
Email: yasuharu.tokuda@gmail.com  
電話: 098-870-0061(代表)

報道

本件は、共同通信により7月16日に配信された。

○沖縄県内紙
・沖縄タイムス 
PFAS 心筋梗塞リスク 血中濃度「高」→善玉コレステロール低下 県内400人調査 4割20ナノグラム超
「汚染源の特定を急ぐべきだ」 市民、公費での血液検査を求める PFASリスクで社説(2025.7.18) 
[社説]PFAS 健康リスク 国の責任で血液検査をhttps://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1629897
 
・琉球新報
PFASに心筋梗塞リスク 血中濃度、脂質異常と関連 沖縄、400人分析 群星臨床センター
 
○TV 
・NHK沖縄
沖縄 PFASで “心筋梗塞や脳梗塞のリスク高まる可能性”(2025.7.17)
・OTV
・RBC
 
-金曜日の県知事定例会見での質問で知事がコメント
・琉球新報
デニー知事、PFAS血中基準設定に期待 沖縄(2025.7.19) 
・OTV(2025.7.18)
PFAS血中濃度と心筋梗塞リスクの研究結果を受け玉城知事「国に整備を求めたい」https://www.otv.co.jp/okitive/news/post/00013887/index.html
・QAB (2025.7.18) 
有機フッ素化合物PFAS/心筋梗塞などのリスクがあると発表https://www.qab.co.jp/news/20250718259596.html
 
※県庁記者会見youtubeはこちら 26分頃からOTVの質問に答えて

 

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