Report 004 検証:2013年HH60墜落〜日本政府は米軍飛行再開に「理解」

 2013年HH60墜落時の日本政府の文書についての調査をアップします。沖縄では2017年10月11日、CH53E大型ヘリが沖縄島北部、東村高江に墜落、炎上しました。その後、米軍は、具体的な事故原因、再発防止策を明らかにしないまま、地元の意思に反し、18日に飛行を再開することを17日に発表しました。

在沖海兵隊第3海兵遠征軍リリース
Media Release: 17-022 CH-53E resuming normal flight operations
October 17, 2017

 米軍機事故の後に、沖縄側からは、必ず「原因究明がなされるまで同機種の飛行を中止する」という要請がされ、それを無視する形で飛行が再開されるというパターンが続きます。今回のCH53Eでも同様に強行的に飛行が再開されました。

 しかし、その裏で何が行われていたのか、IPPの調査では過去の事故の1つの文書に着目しました。これは過去の1例の1文書に過ぎないかもしれませんが、このパターンが繰り返されていた可能性についても否定できません。

 この調査は大きく報道されましたが、その後に沖縄県などが何か行動を起こしたかどうかは確認していません。この状態を放任している可能性も大きいでしょう。

 この調査については、情報公開法を駆使した調査報道を展開する毎日新聞の日下部聡記者が、ロイタージャーナリズム研究所でのフェローとして書かれたリサーチペーパーの中で情報公開法を用いた調査の一例として挙げてくださいました。 

Reuters Institute Fellowship Paper University of Oxford
”Freedom of Information Legislation and Application: Japan and the UK”
By Satoshi Kusakabe

以下、レポートです。

 


Report 004 検証:2013年HH60墜落〜日本政府は米軍飛行再開に「理解」

2017年10月23日
The Informed-Public Project 代表 河村雅美 

 2016年9月22日、アメリカ海兵隊のAV8Bハリアー攻撃機が嘉手納基地を飛び立った後、辺戸岬の東約150キロの太平洋上に墜落した。

 米軍事故が発生すると、抗議決議、意見書などの沖縄側からの怒りの意思表明があり、それにも関わらず、原因究明なき米軍機の一方的な飛行再開が強行される、という悪しきパターンがある。またもやこのパターンが繰り返されるのか、という思いがよぎった。

 それは、2013年8月のHH60のキャンプ・ハンセン墜落の事例を検証していたからだ。

 今回、IPPは、ハリアー墜落を受け、県民の頭越しに行われる飛行再開を避けたいという考えから、HH60の調査で明らかになった文書の流れについての警告的な調査発表をした。

 米軍のHH60の飛行再開リリース時、沖縄防衛局が沖縄県の要請を鑑みず、飛行再開を理解できるという文書を米軍に送り、原因究明をしないまま、再開のゴーサインを実質的に出していたという事実があったことを文書が明らかにした。

 これが何を意味するか。沖縄と米軍の「仲介」「調整」役と考えられている沖縄防衛局は「何もしていない」という批判をされてきていたが、そうではなく、「余計なことをしていた」ということではないか。そして、これは、この1回限りのことかといえば、そうではなく、おそらくこのパターンが繰り返されていたのではないかという推察ができる。

 沖縄の米軍問題は、米韓、米独、米伊と単純に比較できない問題を孕んでいるが、それは、沖縄の頭越しにこの「調整」が米日間で行われてしまうという、問題であろう。しかし、これに対して、沖縄が強い姿勢を示しているか、というさらに根深い問題がある。

 このレポートは沖縄タイムスのトップニュースとして報じられた。

沖縄タイムス「2013年米軍機墜落事故調査中に政府が飛行容認」(2016年9月28日)

以下、その詳細である。

 

2013年8月HH60ハンセン墜落 沖縄県からの文書要請

 2013年8月5日、米軍機HH60はキャンプ・ハンセンに墜落した。それに対し、8月6日、沖縄県知事仲井眞弘多(当時)は日米関係機関に要請書を送付している。

 沖縄県ウェブサイトにアップされているのは、内閣官房長官菅義偉、外務大臣岸田文雄、防衛大臣小野寺五典、の3者である。

沖縄県の以下のサイトで公表されている。
http://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/chijihatugen/documents/20130806-hh60herituiraku.pdf) 

 沖縄県への情報開示請求により開示された要請書は、沖縄防衛局長武田博史、在沖米空軍第18航空団司令官ジェイムズ B.ヘカー准将(日英)、在日米軍沖縄地域調整官ジョン・ウィスラー中将(日英)宛へのものであった(この3通に関しては、ウェブサイトに公開されていない。理由は不明である)。

どの書簡も、

“原因究明がなされるまで同機種の飛行を中止するとともに、事故原因の徹底的な究明と早急な公表、再発防止措置やなお一層の安全管理の徹底等に万全を期すことを、米軍に対し強く働きかけていただくよう要請します。”

という要請がされている。

 

嘉手納基地からの飛行再開リリース

 しかし、事故から10日も経たない8月14日、嘉手納空軍から同機種飛行を8月16日に再開するリリースが発表された。

 HH60の整備点検や訓練手続きの再確認・再教育が行われたこと等は記されているが、事故原因については調査中であると結ばれている。

「原因究明がなされるまで同機種の飛行を中止する」という県の要請は果たされていない。

 

沖縄防衛局による飛行再開理解を示す文書

 この米軍側の飛行再開を「理解できる」と追認した文書が、米軍リリースの同日、沖縄防衛局から発せられていたことが、筆者の調査で発覚した。

沖縄防衛局から米軍に対して発せられた文書

 これは、「原因究明がなされるまで同機種の飛行を中止する」という沖縄県側の意思を無視し、米側の飛行再開を追認する、ということを意味している。

 この文書が同日の14日付でリリース後、即座に送付されていることも、着目すべきであろう。

 このようなことが、事故の度に繰り返され、恒常化されているのではないか、という疑念が生じる文書である。

 

8月15日には日米合同委員会で議題に

 HH60墜落についてIPPが開示請求していた外務省不開示文書のリストから、8月14日に上述のようなやりとりがあった次の日に、HH60墜落についての地元からの要請についての議題が8月15の日米合同委員会で話し合われていたことがわかる。

 その後、米軍の8月14日のリリースでの予告どおり、8月16日にHH60は飛行を再開している。

 

防衛局文書はその後の交渉のベースに

 この沖縄防衛局の文書が、その後の日米間の交渉でベースになっているということがわかる文書がある。飛行再開後の8月20日付沖縄防衛局から18航空団へのメールである。

 これは中部市町村会の沖縄防衛局からの要請時にあった、嘉手納町からの申し入れを米軍に伝える沖縄防衛局のメールである。嘉手納町の申し入れ内容は、HH60の住民居住地域上空での飛行と訓練の禁止であった。

 沖縄防衛局の文書では、8月14日の防衛局から米軍への文書を引用し、嘉手納町の申し入れを防衛局に以下のとおり、伝えている。

“I’d like to reiterate my request that “the United States Government pay due consideration to the public safety more than ever in operating military aircraft including HH-60 helicopter, and take every possible measure to ensure safety.”
“先日、貴職に対して文書で申し入れさせて頂いた「HH-60 ヘリコプターを含む軍用機の飛行運用に際しては、これまで以上に公共の安全に妥当な考慮を払うこと」及び「安全対策に万全を期すこと」を改めて申し入れさせて頂きます。”

 つまり、日米間の交渉等のコミュニケーションにおいて、沖縄防衛局の文書が、日本側の意思を主張する時の依拠する文書となり、それが沖縄の申し入れを米側に伝える時に用いられるということである。飛行再開時に日本側はそれを理解した、という文書が最終的な意思となり、日米合同委員会でもそれが確認されていることも予想される。

 

文書で積み重ねられる意思

 コミュニケーションにより、関係は構築され、更新されていく。沖縄が知らぬ間に出されている日本政府の文書が、沖縄を含む、日本側の最終的な意思表示として米側に認識され、積み重ねられているのである。

 沖縄県の基地対策課は、筆者との電話のやりとりで「沖縄防衛局の文書全てをチェックするわけにはいかない」と話した。果たしてそうなのだろうか。

 沖縄県の文書が、日本政府の文書で上塗られ、それが意思として米側に伝わり続けている—それが沖縄の現状なのではないか。日米合同委員会の前日にわざわざ防衛局が「理解する」文書を送付する時系列的な意味も考える必要がある。

 この調査により、文書の意義、それが積み重ねられることにより発せられるメッセージは何かについて、行政も市民も再考する必要があるのではないかと考える。

 

ハリアーの飛行再開

 ハリアーの飛行再開は、結局、事故原因を究明しないまま、10月5日、米軍ニコルソン四軍調整官が7日から全面的に再開すると会見で発表し、再開した。

 沖縄防衛局は今回も「理解した」という意思を伝えたのだろうか。

 私たちから問題が提起された今、それを確かめるのは、もはや関係する自治体や議員の仕事ではないかと考えるが、それをしないというのも沖縄の一つの意思であり、それは沖縄のメッセージとして日米に受けとめられるということである。

 

❐HH60墜落時の文書時系列表 
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2013年8月5日 HH60キャンプ・ハンセンに墜落
    8月6日   沖縄県知事、米軍、防衛局等に要請文書を送付
    8月14日 嘉手納空軍 飛行再開を発表
           沖縄防衛局 同日に飛行再開に理解を示す文書送付
    8月15日 日米合同委員会でHH60の議題がとりあげられる
    8月16日 飛行再開
    8月20日 嘉手納町の要請を受け、沖縄防衛局から米軍へ要請メール
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Report No.7 北部訓練場なき「やんばる」:奄美・琉球の世界自然遺産登録に関する問題

 環境省は2017年2月に琉球・奄美の世界自然遺産登録の推薦書をユネスコに提出しました。
 その推薦書の問題について指摘したレポート「北部訓練場なき『やんばる』:奄美・琉球の世界自然遺産登録に関する問題」を9月12日にリリースし、環境省那覇自然環境事務所、沖縄県知事、東村長、大宜味村長、国頭村長に送付しました。
 以下、レポートです。

 

Report No.7 北部訓練場なき「やんばる」:奄美・琉球の世界自然遺産登録に関する問題

2017年9月12日
国際自然保護連合(IUCN) 生態系管理委員会委員
The Informed-Public Project 代表
河 村 雅 美
博士(社会学)

要約 

2017年2月1日、日本政府(環境省)は、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島(鹿児島、沖縄)」(以下、「奄美・琉球」)の、世界自然登録のための推薦書を国連教育科学文化機関(UNESCO、以下「ユネスコ」)に提出した。今後、国際自然保護連合(IUCN)の現地視察を経て、2018年夏頃、ユネスコによって登録の可否が決定される。

 審査機関であるIUCNの基準は厳しい。しかし、日本政府はこの登録手続きにおいて、登録のための課題であるはずの米軍基地問題の解決を避けたまま、手続きを進めている。IUCNの基準である「完全性」と「保護管理」の問題をどのようにクリアするつもりなのか、所管官庁の環境省は情報を公開せず、説明責任を果たさずに北部訓練場などの存在や、問題解決に触れない、不自然で、結果的に非科学的な「推薦書」を作成し、提出した。

また、地元のステークホルダーにも十分な情報提供をしているか疑念が持たれる。推薦書では沖縄県、国頭村、大宜味村、東村は推薦地等の「包括的管理計画」の策定者として位置づけられており、「保護管理」に責任が課せられるはずであるが、県と3村がその責任を自覚しているかも不明である。

環境省やステークホルダーは、米軍基地問題を回避することなく、米軍を沖縄における基地と環境の問題に取り組ませるしかない。活動蓄積や経験のある環境団体の活動も参考にし、米軍をテーブルにつかせ、基地と環境という恒常的な問題を一歩進める好機ととらえることが世界自然遺産登録の本質である「人類共通のかけがえのない財産として、将来の世代に引き継いでいく」ことにつながると考える。

構成

1.「奄美・琉球」の自然遺産登録のための「宿題」
2. 国際自然保護連合(IUCN)による厳しい審査
3. 課題とされる沖縄島北部の「完全性」と「保護管理」
4. 環境省の不透明な政策過程 
 1)環境省とIUCN間
  2)環境省と米軍間
5. 米軍基地問題を回避した環境省の「推薦書」
 1)北部訓練場を対象としない管理計画
 2)北部訓練場の一部返還跡地の「基地汚染」という要因
 3)推薦書の科学性への疑義
6. ステークホルダーの沖縄県、国頭村、大宜味村、東村の責任は:包括的管理計画の策定者
 1)沖縄県、国頭村、大宜味村、東村の「世界自然遺産」認識
 2)「包括的管理計画」の策定者としての県と3村
7. むすび
【巻末資料】

 

1.「奄美・琉球」の自然遺産登録のための「宿題」

 2017年2月、環境省はユネスコへ推薦書「世界遺産一覧表記載推薦書 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を提出した(以下、「推薦書」、対象地については「奄美・琉球」と略す)。 

 2003年「世界自然遺産候補地に関する検討会」(環境省、林野庁)では、琉球諸島が、日本の世界自然遺産の候補地の一つとして、知床、小笠原諸島とともに選定された。その後、知床は2005年に、小笠原は2011年に登録され、琉球諸島のみが長らく未登録の土地となっていた。

 それは、推薦地の一部である琉球諸島の世界自然遺産登録が、困難な問題を抱えてきたからである。

 小笠原諸島の世界遺産条約のために小笠原主席自然保護官として勤務した環境省の技術系行政官中山隆治氏は、琉球諸島の登録が困難な事情を2012年に、以下のように述べている。

「琉球諸島に至っては、未だに登録のめどが立たない。この理由は、米軍基地の返還など自然保護行政の範疇に収まらない問題があり、宿題が大変なボリュームだからである」[1](太字は引用者による)。

「宿題」とは、ここで述べられているとおり、米軍基地、具体的には 沖縄本島北部に存在する北部訓練場の存在から生じる課題である。このような「宿題」を抱えながら、所轄官庁である環境省は、2013年以降、琉球・奄美の世界自然遺産の登録のための手続きを進めてきた。

 この大変なボリュームの「宿題」とは具体的に何なのか、「宿題」は誰がすべき「宿題」なのか、その「宿題」は終わっているのか。本レポートでは、「奄美・琉球」の「世界自然遺産」登録における米軍基地問題を整理し、提示することとする。

 

2.国際自然保護連合(IUCN)による厳しい審査

上述した環境省内部が認識していた「宿題」が何かを理解するには、世界自然遺産登録のプロセスの理解が必要である。

世界自然遺産登録までの手続きを確認しておくと、以下のとおりである。

①締約国政府が推薦を予定している地域のリストである「暫定一覧表(暫定遺産リスト)」へ記載(推薦書提出の1年前まで)

②締約国政府がユネスコ世界遺産センターへ推薦書を提出

③世界遺産委員会の諮問期間である国際自然保護連合(IUCN)による現地調査・書類審査・評価

④世界遺産委員会(年1回開催)で世界遺産一覧表への記載の可否について決議

 現在、②までが「奄美・琉球」の世界自然遺産登録では終わっており、③の状態にある。登録自体は、国連教育科学文科機関(ユネスコ)が行うが、その登録過程において、国際自然保護連合(IUCN)が審査・評価機関となり、対象地が登録にふさわしいかを審査する。以下がその審査過程である。

世界自然遺産登録過程
2003年5月
「世界自然遺産候補地に関する検討会」に於いて、琉球諸島が世界自然遺産候補地として選定 2013年1月 ユネスコ世界遺産センターへの暫定リスト記載が決定 2017年2月
 ユネスコ世界遺産センターへ推薦書類を提出
2017年秋
 国際自然保護連合(IUCN)による現地調査予定
2018年7月
 世界遺産委員会の採決 予定

ユネスコのガイドライン

 IUCNは、登録の基準に達しているかどうかを厳しく審査することになっており、基準は、ユネスコによるガイドライン『世界遺産実施のための運用基準(The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention)』で定められている[2]

 世界自然遺産登録は、「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value, OUV)」を有するかで判断され、以下の3つの条件を満たすかどうかが審査される。

 

ユネスコのガイドライン

①4つの「評価基準(クライテリア)(「自然美」、「地形・地質」「生態系」「生物多様性」)」の1つ以上に適合すること。

②「完全性(Integrity)の条件(顕著な普遍的価値を示すための要素が全て含まれているか/当該資産の重要性を示す特徴を不足なく代表するための十分な面積を有しているか/開発または管理放棄による負の影響を受けているか)

③顕著な普遍的価値を長期的に維持できるように、十分な「保護管理」が行われていること。

 ユネスコの評価、IUCNの基準は厳しい。加えて、2000年に年間あたりの遺産登録数を実質的に制限するケアンズ決議が採択されて以降、世界遺産登録の厳格化が顕著になり始めた。IUCNの世界遺産推薦の評価者へのマニュアル[3] では、審査時に評価を「厳しくたれ」と評価者へ促している。マニュアルには、新たに推薦される自然遺産の約半数が基準に達しないことを認識するように審査者に促されている。

 審査結果は、登録/記載(inscription)、情報照会(referral)、登録延期(deferral)、登録不可/非記載がある。登録不可が勧告されるとその件は同一の「顕著な普遍的価値」で推薦することはできない[4]。遺産登録時に勧告を提示し、問題解決を求めるケースもある。原則的に現地調査の結果が覆されることはなかったが、近年は、現地調査で登録延期勧告があったにも関わらず、世界遺産委員会で「逆転」登録を果たす例が増加し、政治化の傾向を強めていることの指摘もある[5]

直近のIUCN側のメッセージとしては、拙速な登録への警鐘が挙げられる。2017年7月に行われた世界遺産大会では、新たに5カ所の世界自然遺産の登録が決まったが、自然遺産、文化遺産あわせて21候補地中6カ所が登録の推薦を得ることができなかった。IUCN世界自然遺産プログラムのディレクター、ティム・バッドマンは今回の会議の論点の一つに拙速な登録の功罪を挙げている。遺産登録を祝福する一方で、拙速な登録は、自然遺産条約自体にも、(条件をつけられて)保全のためのモニタリングやユネスコへの報告などを課せられる当該政府自体にも長期的には利益とならない、ということを述べ、世界遺産の最高の厳しい基準(gold standard)を保持するための行動を促している[6]

 

3.課題とされる沖縄島北部の「完全性」と「保護管理」

 上述のユネスコの基準に照らし合わせると、「奄美・琉球」の推薦対象地は、上述した審査基準の①の「評価基準」の部分は、「生態系」「生物多様性」の基準で達していると考えられている。「宿題」であるのは、②の「完全性」と③の「保護管理」の部分である。

 世界自然遺産評価に関わった経験のあるIUCN日本委員会前会長吉田正人氏は、やんばる国立公園の国立公園指定時に、県内紙で以下のような見解を示している(2016年9月16日 沖縄タイムス社会面)。

 “IUCNの評価は、①自然遺産の登録基準(自然美、地形地質、生態系、生物多様性)への合致②完全性の条件③法規制による保護地域の保全――の三つを満たすことが求められる。

 問題は②で、十分な面積を有すること、必要な地域を全て含んでいること、周囲の開発などの人為的影響を受けていないことの3点がチェックされる。

 法規制のかかった保護地域の担保は、国立公園指定によって固有種を保護するため、必要な地域を全てカバーできているかどうかが問題となる。過去に登録された日本国内の4カ所と比較すると、おそらく完全性や、保護地域の保全が十分であるかを説明するのが最も難しい候補地であることは間違いない

IUCNとしては、北部訓練場があるからという理由で門前払いせず、訓練場があることによって世界遺産登録に必要な地域(固有種の生息地など)が除外されていないか、訓練自体が固有種の生息に影響を与えないのかなどに関し、日本政府への質問と併せて、現地調査で自ら確認する。

その際、訓練場内での固有種の生息状況や米軍の訓練による影響は、日本政府の管轄が及ばないので答えられないということであれば、登録は難しいだろう。登録されるとしても、米軍が世界遺産地域の保全にどのように協力するかなどの条件が付けられるだろう。“(太字は引用者による)

 米軍基地の存在が及ぼす具体的な問題としては、主に以下のような問題があげられる。

1)登録対象地の範囲 (「完全性」の問題)

やんばる国立公園と北部訓練場は森としては一体であり、面的に区分できない地域であるにも関わらず、北部訓練場が保護管理の対象地となっていなければならず、必要十分な地域を満たしていない[7]。「完全性」の条件を満たさない可能性が高い。

2)米軍の排他的管理権・管轄権 (「保護管理」の問題)

  • 米軍基地の運用による自然環境への影響を誰がどのように把握し、調整するのか等の保護管理措置の面が不明である。日米地位協定により、日本側の北部訓練場内のアクセスが実質、米軍の裁量によるものであるため、保護管理のための基地内へのアクセスが確保できているとはいえない。直近の例では、沖縄県議会米軍基地特別委員会が2017年7月に申し込んでいた北部訓練場内のヘリパッドの立入り視察を2017年9月4日現在、「運用中のため」という理由で許可されていない。立入り視察の目的は、貴重種の移植状態の確認なども含まれている。
    また、環境省は経常的に行っていた基地内調査の立入りも2014年から米軍から許可されず、それを国民、県民に公表していなかったことが筆者の調査で明らかになっている[8]
  • 在日米軍が作成する、環境保護及び安全のためのガイドライン「日本環境管理基準(JEGS)」が基地内で運用されていることを「承知している」と日本政府は主張するが、実質は運用についての確認も公表もしない。JEGSの「第13章自然資源及び絶滅危惧種」における北部訓練場の「自然資源管理計画」の内容、運用の把握も不十分である[9]
  • 運用時の事故の対処に関しても不明である。米軍関係の事故発生時は、基地の外であっても、日本政府や地元自治体が排除され、適時に調査ができないという事態が推測される。2016年12月の名護市安部のオスプレイ墜落時が直近の例としてある。このような状態で保護措置が担保できているといえるのかが不明である。

3)高江のヘリパッド建設・運用(「保護管理」の問題)

「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」合意により、北部訓練場の一部の返還は高江のヘリパッド建設が条件となっており、2016年12月の返還に向けて高江ヘリパッド建設事業が強行に進められた。高江のヘリパッド建設については、環境破壊であるという世界の環境団体や科学者からも多くの懸念が示されてきた。また、この件に関しては2度、IUCNから勧告(2000年、2004年)がされている。それにもかかわらず、日本政府は正式な環境影響評価を行わずに、杜撰と評される沖縄防衛局の「環境影響評価図書」(「自主アセス」と呼ばれる)のみで住民の意思に反して工事を強行した。 

4)辺野古・大浦湾の米軍基地建設の埋立て土砂による外来種侵入(「保護管理」の問題)

推薦地と直線距離で20km以下の辺野古・大浦湾での米軍新基地問題で、埋立て土砂による外来種の侵入と拡散問題がある。2016年のIUCN世界大会で埋立て土砂による外来種侵入の対策を求める勧告[10]がなされている。

 

4.環境省の不透明な政策過程

 上述した問題の解決のためには、現実的には、北部訓練場に関する情報開示や現場へのアクセス、現実的な保護管理計画の実施などに関する米軍との調整・交渉が必要である。

 しかし、米軍基地問題を回避し、それを実現する道筋を環境省は示してこなかった。この問題に関しては、環境団体がヒアリングや要請行動で環境省に疑問を投げかけてきたようだが、同省がどのように問題に取り組んでいるかの実態が公になってこなかったため、筆者は情報開示請求で、環境省の交渉過程を追及した。

1)環境省とIUCN間

 環境省が、IUCNに北部訓練場や高江のヘリパッド等の問題についてどのように情報提供・意見交換をしているか不明であった。

 世界自然遺産登録の手続きが本格化する前年、2012年11月にIUCN世界保護地域委員会(WCPA)のレスリー・F・モロイ氏が環境省の招聘で沖縄を訪問時、世界自然遺産登録のためのシンポジウムが開かれた。そのシンポジウムでは、北部訓練場の件に関しては一切、話題とならなかったため、シンポジウム後、筆者を含む市民がモロイ氏に北部訓練場の地図を示し、問題を話したところ、高江のヘリパッド建設については承知していたが、北部訓練場の件に関しては現地の情報が十分に提供されていない様子であった[11]

 上述のような背景と問題意識をもとに、筆者は、The Informed-Public Projectとして、2016年8月、ユネスコ、IUCNと環境省のやりとりを環境省に情報開示請求したが、「他国等との信頼関係が損なわれるおそれがある情報」という理由で、ユネスコ、IUCNに関しては、実質、不開示となった[12]。この結果については異議申し立てとしての審査請求を行っている。

 また、モロイ博士が沖縄等の現地視察後、環境省に提出した世界自然遺産登録の2つの報告書を開示請求した。小笠原諸島の世界自然遺産登録の経緯をみると、モロイ氏が外来種のことで具体的な助言を与え、保護担当官が具体的な保護担保措置に対応していた事実があったためである[13]。環境省への助言機関として専門家により構成される「奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会」のウェブで公開されている文書から見ると、モロイ氏の助言については、2013年8月に、「完全性及び推薦地域に関するIUCN専門家の指摘事項」というA4約1枚の資料が提示されているのみである[14]。ここには北部訓練場など米軍基地関係のことは触れられていない。

 開示請求の結果、一般へのプレゼンテーション資料の開示のみで、不開示の2つの行政文書名は公表されながらも[15]、報告書の内容は「国の内部における検討に関する情報であり、非公開を前提としてモロイ氏より接受した資料」等の理由で開示されなかった。また、環境省への聞き取りによると、科学委員会のメンバーにもモロイ氏のレポートそのものの完全版は公開していないとのことであった。

 政府と国際機関間の情報不開示の例は、ユネスコとオーストラリア政府間の政治的で不透明なやりとりが批判的に報道され[16]、問題化されている。この件については巻末資料を参照されたい。

2)環境省と米軍間

 環境省と米軍とのやりとりについても開示請求をしたが、文書ファイルも特定されず、2016年9月、不開示となった[17]

 筆者はこの件に関しても審査請求を行ったが、審査請求時に出された米軍とのやりとりに関する環境省の「理由説明書」では、「不開示文書は、日本政府と米軍との間で行われた会議の議事録及び会議で使用した資料である。当該会議の議題及び議事内容は非公開とすることを前提として両国間で議事録を作成しており、双方の合意なく公開しない旨を議事録に明記しているが、当該議事録を公開することについて合意されていない」と、いきなり日米合同委員会の議題であることを示唆する理由を示してきた。日米合同委員会は、非公開が原則であり、世界自然遺産の件が、この後も記録が公開されないであろう秘密外交の場でのみ、話し合われていることを意味している。

 このように、この問題を解決するための当事者とのやりとりについては、科学的な内容がベースであるはずの文書であるにも関わらず、環境省が情報開示を拒否した状態にあり、透明性に関しても、説明責任に関しても責任が果たされていないまま、登録過程を進めている状態であるといえる。

 

5.米軍基地問題を回避した環境省の「推薦書」

1)北部訓練場を対象としない管理計画

 環境省は保護担保措置の手続きの中でも、米軍基地の問題を回避し続けてきた。2016年9月にやんばる国立公園が指定されたが、同公園の指定でも、米軍基地問題については触れられていなかった。 

 米軍基地問題に関しての課題に対する環境省の政策は、最後まで公にされることはなく、2017年2月1日に日本政府はユネスコに「推薦書」を提出した 。

 ここで推薦書類の構成について説明しておく。推薦書類は、遺産としての価値を証明する「世界遺産一覧表記載推薦書:奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(2017.1 日本政府、以下「推薦書」)と、その遺産を将来にわたり保全するための方策等、保護管理の方法を示した「付属資料」の2つの書類で構成されている。

 ではこの書類の中で、米軍基地についてはどのように触れられているのか。

「推薦書」では、「復帰」後も沖縄に課され続ける重い米軍基地負担を否定するかのように、「沖縄県内の米軍基地は、本土復帰後、2016年12月末現在までに、約34%減少している」という基地についての記述がされている。また、北部訓練場については、「特に、推薦地を含む沖縄島北部の国頭村には、約1,446ha(村面積の約7%)、東村には約2,267ha(村面積の約28%)の米軍基地があり、その大部分の約3,658haは北部訓練場として使用されている」という記述のみである。北部訓練場は、面積では沖縄県の米軍基地の約18%を占め、キャンプ・ハンセンに次ぎ、2番目に大きい基地であるが、その存在感を矮小化するような説明をしている[18]

 この推薦書の基盤は、環境省の案と、専門家により構成される「奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会(以下、「科学委員会」)」の案に関する議論である。そこでは、2016年2月27日の「平成27年度第2回奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会」でも委員会の中から基地の存在に関する懸念が示され、環境省が「どういう取り組みができるか検討する」などと応じたことが2016年2月28日の沖縄タイムス(「基地隣接保全策に『穴』国内法適用外 国『悩みの種』」で報じられている[19]

同日の議事概要では、以下のような記述となっている。

”議事3 奄美・琉球世界自然遺産の推薦区域等について

 (中略)

<委員質問・助言・要請事項等>(注:●は委員の発言、→は事務局の発言)

  • やんばる国立公園(仮称)では、東側は全て国立公園区域から外れているのか。北部訓練場は国立公園区域に含まれないか。また、世界遺産の緩衝地帯や周辺地域にも含まれないか。植生は連続しているが、資料2-6「現存植生図」で北部訓練場の部分が示されていないのは何故か。

 →北部訓練場を国立公園区域に含むことは難しい。また、返還済みの場所についても、地域で今後の土地利用方針が未決定・未調整の場所がありこのような区域案となっている。国立公園区域は、地元の理解が得られ、かつ、国立公園の資質が認められる場所について調整した結果。また、世界遺産の緩衝地帯も法律等に基づく保護地域が求められ、北部訓練場を含むことは難しい。周辺地域については、どのような取組が可能か未知であり今後精査する。現存植生図について北部訓練場部分もデータはあるが、境界を明瞭にするために白抜き表示した。今後、参考資料で出すことは可能で、出典となった自然環境保全基礎調査植生調査の結果も公表されている。”(太字は引用者による)

 この記述からみると、環境省は、法律等に基づく保護地域として北部訓練場を含むことは困難である見解を示している。保護管理計画は、「推薦地」と「緩衝地帯」と「周辺地域」が対象範囲となるが、「推薦地」と「緩衝地帯」は法律の範囲が及ばないので北部訓練場を含むことは無理であるという結論で「周辺地域」で可能性を精査するとしている。しかし、この環境省の見解がその後、議論された記述はその後の議事概要では確かめられなかった。

科学委員会の説明責任の追究のため、日本自然保護協会と、Okinawa Environmental Justice Projectの環境団体は、2017年1月に科学委員会宛に質問状を送付しているが[20]、回答はない。

 では、「推薦書」でこの委員会の議論はどのように処理されたのか。「付属資料」では、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産推薦地包括的管理計画」の「2.計画の基本的事項」の「2)計画の対象範囲」で「周辺地域」が以下のように定義されている。

沖縄県北部のいびつで不自然な管理計画対象地地図

「○周辺地域:

・推薦地や緩衝地帯の周辺地域(必要に応じ、周辺の航路等も含む)

・法的または慣習的手法等による保全・管理、持続可能な利用、遺産地域の保全に係る普及啓発等をはじめとし、資産を維持又は強化するため若しくは資産の保全・管理場必要な取組を実施する地域。これらについては、広域的な取組が必要であることから、奄美大島、徳之島、沖縄県北部については、関係する市町村の行政区を、西表島については、島全体を基本として、周辺地域を設定する。」[21]

 結局、環境省は、北部訓練場を周辺地域にも含めず、管理計画の対象としなかったのである。科学的に保護すべき地域を対象地として、管理計画を立て、米軍との交渉により制度を策定する、という政策をとることが科学的にも政策的にもあるべき形であると考えるが、実際の管理計画では、“手がだせない””手をつけると厄介なことになる“北部訓練場と係る部分は外して「周辺地域」を定義し、現実にある自然環境問題に対応した保護管理計画はたてられなかったということである。

 環境省が認識していた「宿題」である米軍基地問題は、管轄権が及ばないことで解決の困難な“政治的なるもの”として回避され、北部訓練場は存在しないかのような推薦書、管理計画となったといえるであろう。

2)北部訓練場の一部返還跡地の「基地汚染」という要因

 対象地の問題では、2016年に返還された北部訓練場の一部返還地の問題がある。この部分に関しては、言及が必要である米軍基地跡地問題も推薦書ではとりあげられていない。

 北部訓練場の一部返還計画は、菅義偉官房長官から2016年10月に発表され、同年12月にその過半が返還された。上述のとおり「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」合意により、高江のヘリパッド建設を条件としての返還であった。

 米軍基地の跡地は、深刻な汚染が返還後に発覚することが米国内外では常識となっている。本国では汚染の調査、浄化に10年以上の時間を費やされる。しかし、沖縄では防衛省の地方協力局(沖縄防衛局)が調査をすること、地元が早期利用を望むことから、汚染の精緻な調査は行われない力学が働いている。この北部訓練場も、汚染調査を含む支障除去計画が、この面積で1-1.5年と、非常に短い期間で設定されている。

沖縄防衛局の県・国頭村、東村への説明資料

 また、北部訓練場の跡地の問題としては、返還された土地の国立公園化という利用計画も同時並行で行われている[22]。これは、米軍跡地を自然保護区に転換し、米軍基地が存在した歴史を不可視化し、浄化コストを低く抑えるという、プエルトリコのビエケス、グアム、ハワイで行われてきた政策がまさに沖縄で行われようとしているといってよいであろう[23]。返還地の国有地が84.9%の割合であること、調査後は、実質、沖縄防衛局から林野庁という国から国への引き渡しとなることも、調査の簡略化が予想できることである。調査や浄化の監視機関が制度的にない現在、これは杜撰な調査のまま引き渡される可能性が強い。この北部訓練場は、米国の退役軍人の枯れ葉剤散布の証言や、補償裁定もある。北部訓練場、及び返還跡地で予測される「基地汚染」という要素が、世界自然遺産の「完全性」の基準で、どのように評価されるのかについても、推薦書では考慮されていないことも指摘しておきたい。

3)推薦書の科学性への疑義

伊藤論文’Imminent extinction crisis among the endemic species of the forests of Yanbaru, Okinawa Japan’

本来、やんばるの自然を保護するために、保護管理計画が包摂しなければならなかった北部訓練場の存在をなきものとしたことは、保護管理のための前提である事実が歪められ、推薦書は科学性が欠落したものとなったことを意味する。北部訓練場に係る部分を回避したことは、この件に関して警鐘を鳴らしていた科学者や日本生態学会を始めとする国内、世界の学会、自然保護団体、住民、市民からの声[24]も抹消したこととなる。やんばるの自然に精通し、海外にも発信し続けた生物学者、故伊藤嘉昭氏がファースト・オーサーである査読論文、”Imminent extinction crisis among the endemic species of the forests of Yanbaru, Okinawa Japan”[25]は、推薦書のレファレンスにも入っ ていない。それはある意味、データの意図的な抽出、隠蔽であると受け取られても仕方がない。

 また、この推薦書のレファレンスには米国側からの基地関係資料も列記されていない。2012年にオスプレイ配備のために米軍から提出されたEnvironmental Review for Basing MV-22 Aircraft at MCAS Futenma and Operating in Japan (「MV-22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー」)[26]にも言及せず、「日本環境管理基準(JEGS)」そのものや、JEGS13章「自然資源及び絶滅危惧種」に挙げられている「自然資源管理計画」[27]も参照されていない[28]

 IUCNとの関係でいえば、やんばるの適切な環境保全対策を求めた過去のIUCN勧告(2000, 2004)をふまえていない。また、高江ヘリパッド建設に推薦書で触れていないことは、IUCNのレッドリストのノグチゲラの部分で、絶滅の主要な脅威としてヘリパッド建設が挙げられていることを無視していることになる。辺野古・大浦湾の勧告、決議も含め、推薦書はIUCNを軽視したものと評価される可能性もあるだろう。

”Construction of six new helipads near the village of Takae in the US Marine Corps Northern Training Area began in 2007 and represents a further potential threat to remaining areas of forest (WWF Japan 2007). ”

 

6.ステークホルダーの沖縄県、国頭村、大宜味村、東村の責任は:包括的管理計画の策定者

1) 沖縄県、国頭村、大宜味村、東村の「世界自然遺産」認識

 これまで、環境省の政策について記述してきたが、それでは、世界自然遺産登録の地元のステークホルダーである沖縄県、国頭村、大宜味村、東村はこの米軍基地なき推薦書に対して何の責任もないのだろうか。

 もともと、「国の責任で」実施される事業は、沖縄の自治体は政策内容に対して依存的な傾向があり、この件でも環境省に「お任せ」しているような姿勢が伺える。

 しかしそれは、環境省がステークホルダーである沖縄県、3村の地元の関係者に適切に情報を伝えていないことによるものではないかとも考えられる。ステークホルダーの認識をうかがいしることができるものとして、「『やんばる国立公園』あす指定 国頭、大宜味、東村座談会(2016年9月14日 琉球新報)」の中にある、以下のようなやりとりがある。

“[隣接する基地との関連]

司会 他の国内の国立公園と異なる特徴として、米軍北部訓練場と隣接している。基地がある中で、よく指定されたなという意見もある。指定される地域が米軍北部訓練場のすぐ隣にあることや、自然保護の関わりについて、どう思うか。

東江 (基地がある状態は)好ましいことではないが、米軍北部訓練場を外してでも十分、国立公園になる価値がある。世界自然遺産登録の価値がある。SACO合意などに基づき過半が返還されて、この地域一体が国立公園や世界自然遺産に指定、登録されるということは大変喜ばしい、期待されるものだ。

新垣 やんばるは生物多様性が非常に高い。そういった観点からして、基地の部分を外したとしても十分世界自然遺産に登録する、申請するという価値がある

司会 この価値をどういう視点で活用し、PRしていくことができるか。

小田 東村にはダムがあるが、ダムの対岸側が北部訓練場になっている。その部分が返還されるという意味では、今後はダムツーリズムも手掛けていく。そういった意味で、やんばる地域として非常に期待できる部分ではある。

司会=宮城久緒 (琉球新報社北部報道部長)

東江=東江賢次氏(国頭村世界自然遺産対策室室長)

新垣=新垣裕治氏(名桜大学国際学群・観光産業専攻教授)

小田=小田晃久氏(NPO法人東村観光推進協議会事務局長)“

(太字は引用者による)

 この座談会の発言をみると、「北部訓練場を外しても世界自然遺産の価値がある」という主旨の発言が見受けられる。しかし、これは対象地がIUCNの審査基準の「評価基準」がクリアされていればよい、基地をいれなくても、そこだけで、自然遺産の価値があればよい、という誤った理解をしているように読める。保全に必要な地域が十分にカバーされているかどうか、という完全性の基準や、保護管理の法制度の整備の必要性について、地元の自治体が理解しているかどうかには懸念がある。環境省がステークホルダーに十分に説明をしていない、当該自治体が学んでいない可能性がある。

 沖縄県に関しては、県の世界自然遺産事業の説明では米軍基地については一切触れていない[29]。また、筆者も同席した2017年7月20日の環境団体と沖縄県との意見交換時に沖縄県は上述のような認識が欠如していることを確認している。

2)「包括的管理計画」の策定者としての県と3村

 ステークホルダーの認識が欠如している一方、推薦書の保護管理計画には、県も3村も責任があることは「推薦書」に明記されている。

 環境省は2016年2月27日の第2回奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会において「推薦書作成と科学委員会は『環境省、林野庁、鹿児島県、沖縄県』の4者が事務局だが、管理計画はこの4者に加え市町村も策定主体となる」という見解を示している。

これは保護管理計画には、沖縄島北部の話でいえば環境省のみでなく、県、3村も責任があるということであろう。実際の「推薦書」でも、保護管理計画が記されている「付属資料」では、「包括的管理計画」は市町村も策定者として連名者となっている。つまり、推薦書で示した「評価基準」はクリアしても、「保護管理」に瑕疵がある場合は県、3村にも責任があることを示していると考えられる。もし、登録されなかった場合、環境省が責任を県等に負わせることも可能性としては否定できない。これまでの経緯をみると、県と3村がそれを自覚しているようには思えないが、それぞれが米軍基地に関する保護管理計画についての見解を示せるようにしておくことが重要であろう。

 例えば、世界自然遺産問題で問題となる高江の米軍ヘリパッド建設に対してのそれぞれの姿勢と、管理計画についての見解である。北部訓練場の一部が返還される理由で沖縄県、東村は建設に容認の立場をとっており(国頭村は村内世論に配慮し、賛否を名言せず)、北部訓練場関係の世界自然遺産登録手続きでの保護管理計画に対して、積極的な関与をしていない。この件では沖縄防衛局の政策に追従し、対応は環境省に任せているという立場は沖縄側の自治体は共通のものである。

 

 この問題は、沖縄県知事のIUCNへの矛盾した姿勢を露わにすることともなっている。2017年4月20日にIUCN事務局長に、日米政府に辺野古新基地建設断念を働きかけるよう要請書を送付しているが、高江のヘリパッド建設を見直すことを日本政府に検討させることを求めたIUCN勧告に対しては反する姿勢をとっている。沖縄県の世界自然遺産に関する政策は、環境省と同様、基地問題を回避してきたものであり、IUCNからは沖縄県のヘリパッド建設の姿勢を含め、北部訓練場に係る管理計画を問われる立場でもある。この書簡に関しては、IUCNが辺野古・大浦湾の米軍新基地建設に関する問題を世界自然遺産登録の問題と認識したことから、米軍基地問題と世界自然遺産登録の問題がリンクしたため、現実性を帯びることとなった[30]

 また、沖縄県は、恒常的に米軍基地被害について訴えてきた立場であることも、再認識する必要がある。知事公室基地対策課が『沖縄の米軍基地』を定期的に発刊し、県知事を会長とする沖縄県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)でも基地問題を毎年日米政府に要請している。2013年、沖縄市サッカー場で発覚した米軍基地汚染問題後、沖縄県環境部は3年をかけて、「沖縄県米軍基地環境調査ガイドライン」[31]や「米軍基地環境カルテ」[32]を完成させた。「米軍基地環境カルテ」では一応、北部訓練場内の自然環境や発生事故などにも触れられている[33]。また、県は事故発生時に、情報にも現地にも適時のアクセスを拒否され続けてきており、立入りの権利の要求、日米地位協定の改正も要求してきている。さらに、2016年のハワイでのIUCN世界大会でも環境部長は基地汚染の被害を訴えていたという。そのように米軍基地の環境への被害を認識し、制度の改正を訴える姿勢をとっている一方で、世界自然遺産に関する米軍基地問題では、地元のステークホルダーであるにも関わらず、環境省と足並みを揃えて北部訓練場問題を政治的な問題として回避する姿勢をとっている。県の姿勢の一貫性のなさ、基地環境政策に関する矛盾した姿勢については世界自然遺産登録問題で露呈することとなったといえる。しかし、この中での県が果たす責任は、後々、県行政の足腰の強さにつながる作業であることも一方で期待されるものである。

 

7.むすび

 大変なボリュームであると指摘されていた琉球諸島の「宿題」の問いに対する、日本政府やステークホルダーの応答についてまとめてきた。

 結局、米軍基地を抱える地域が世界自然遺産登録の基準を満たすにはどうしたらよいのか、という宿題は、環境省、林野庁をはじめとする日本政府、また、沖縄県を始めとする地元のステークホルダーたちも、厄介な米軍基地問題は棚上げし、放置してきたといってよい。米軍基地の存在の事実を「推薦書」に記さず、それに伴い、対応する保護管理制度も担保できていないという状態で現地審査を待つ状態となっている。

 しかし、前述のとおり、IUCN側は、沖縄県とのやりとりで辺野古の問題を世界自然遺産の問題として認識しており、対応を余儀なくされることになっている。

 これに対してどう対応していくべきかといえば、やはり米軍基地問題を直視した行動をとることに尽きると考える。これまで世界自然遺産の米軍基地問題に関して経験を蓄積してきた環境団体の行動には参考になる例が多くある。例えば、米軍に対しては、2016年12月、Okinawa Environmental Justice Project が中心となり、米軍がこの問題へ関与することを求める手紙を提出し[34]、2017年2月、日本の英字紙The Japan Timesに掲載された[35]。また、IUCNに対しては、日本自然保護協会等、複数の環境団体で、現地視察等への審査に関する要望書を提出し、IUCNから考慮する旨の回答を得ている。要望書には米軍基地の問題に関しても触れられている[36]。この要望書は、「やんばるの森」(沖縄本島北部)の世界遺産登録を求め、同地域における米軍ヘリパッド建設に対して適切な環境保全対策を求めた、前述した過去のIUCN勧告(2000, 2004)を踏まえている。先に言及したIUCNのティム・バッドマンが挙げた課題でも「市民社会に門戸を」が挙げられ、市民社会の重要性を指摘している。環境団体はIUCNの現地審査で、IUCNとステークホルダーとの意見交換の場を設定することも要求しており、日本政府はそれを考慮することが求められている。それはIUCNの方向性に叶うことでもあろう。

「宿題」は、米軍を当事者としてテーブルにつかせ、日米政府から情報を出させ、保護管理について交渉していくことにより解決していくしかない。基地と環境という、沖縄が抱えさせられてきた恒常的な問題を一歩進める機会ととらえ、その方向へ舵をきることが世界自然遺産登録の本質である、”人類共通のかけがえのない財産として、将来の世代に引き継いでいく”ことにつながると考える。

 

【巻末資料】

2016年5月、オーストラリア政府が観光業への懸念などから、ユネスコの世界遺産登録地と気候変動についての報告書の内容に介入し、草稿にあったグレートバリアリーフのサンゴに関する部分が削除されたことが英メディア「ガーディアン」の報道で明らかになった。削除は、オーストラリアのユネスコへの依頼によるものであることも明らかになっている。この事例は、世界自然遺産に登録されているグレートバリアリーフが危機的な状況にあり、オーストラリア政府が観光への打撃を懸念している ことが背景にある。ユネスコの世界遺産委員会は2015年に、グレートバリアリーフを「危機遺産」に指定しようとしたが、オーストラリア政府がロビーイングにより、指定を回避した。

同年8月、オーストラリア政府に対してなされた情報開示請求により、ユネスコとオーストラリア間の電子メールが開示されたが、内容はほぼ不開示であったことが報道された。オーストラリアは情報開示請求を受けた時に、ユネスコに開示の可否を相談したが、ユネスコが開示を拒んだということである。これはオーストラリア政府とユネスコが結託して政治的なやりとりを隠蔽したことを示すものとして、批判的に報道された。

このように、政府と国際機関のやりとりに実質的に不信感が生ずる事例が、国際社会において発生している。しかし、このケースでは、オーストラリアは文書の開示について、マスキングで文書の内容は隠されているが、電子メール自体は明らかにされており、文書も特定しない日本の環境省よりは開示の幅は広い(文書は、ロンドンをベースとした気候変動を巡る国際政治を焦点としたニュースソースを提供するClimate Homeのウェブサイト[37]で公開されている)。

 


[1] 中山隆治「世界遺産条約の国内実施の実態・小笠原諸島の事例」『新世代法政策学研究』(特集:「環境条約の国内実施に関する学際的研究」プロジェクト:世界遺産条約))vol.18(2012), p.86.

[2] UNESCO, The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention, 2016   (http://whc.unesco.org/en/guidelines/).

[3] IUCN EVALUATION OF WORLD HERITAGE NOMINATIONS: Some Suggestions to Evaluators for IUCN Evaluation Missions and IUCN Technical Evaluation Reports, p.8. https://www.iucn.org/sites/dev/files/import/downloads/guidelines_for_evaluators_2013.pdf

[4]田中俊徳「世界遺産条約の特徴と動向・国内実施」『新世代法政策学研究』(特集:「環境条約の国内実施に関する学際的研究」プロジェクト:世界遺産条約))vol.18(2012), pp.58-59. 訳語はIUCN-J吉田正人氏の用いる訳語と併記した。

[5] 同上

[6]“The power of danger listing, hasty inscriptions, smarter financing and a voice for civil society – IUCN’s key takeaways from the 2017 World Heritage Committee meeting” ( July 12, 2017) https://www.iucn.org/news/iucn-41whc/201707/power-danger-listing-hasty-inscriptions-smarter-financing-and-voice-civil-society-%E2%80%93-iucn%E2%80%99s-key-takeaways-2017-world-heritage-committee-meeting

[7]  宮城邦治(2016)「高江アセスの問題点」『 第33回 日本環境会議沖縄大会要旨集

「環境・平和・自治・人権-沖縄から未来を拓く」』。

[8] 沖縄タイムス「基地内調査 14年から中断年1-2度環境モニタリング」(2017年8月20日)

[9] Department of Defense, Japan Environmental Governing Standards, JEGS, April 2016, (http://www.usfj.mil/Portals/80/Documents/Other/2016%20JEGS.pdf)

[10]日本自然保護協会「第6回IUCN世界自然保護会議で 『島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化』勧告が採択される」 http://www.nacsj.or.jp/archive/2016/08/625/(2016年8月30日)。

[11] 「『世界自然遺産シンポジウム in 那覇』の部分的だけど大事な報告」(2012年12月3日)沖縄・生物多様性市民ネットワークブログ記事 http://okinawabd.ti-da.net/e4154949.html。筆者は、IUCNの生態系管理委員会(CEM)の委員として、記録としてIUCNのCEMニューズレターに“Amami and Ryukyu island chain” という記事を寄稿し(2013年1号)記録した。

[12] IPPレポート「琉球・奄美の世界自然遺産に関する情報開示請求について 」を参照。http://ipp.okinawa/2016/12/02/report-005/

[13]中山隆治「世界遺産条約の国内実施の実態・小笠原諸島の事例」『新世代法政策学研究』(特集:「環境条約の国内実施に関する学際的研究」プロジェクト:世界遺産条約))vol.18(2012), p.90.

[14]第2回奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会(平成25年8月30日)「資料3 完全性及び推薦地域に関するIUCN専門家の指摘事項」 http://kyushu.env.go.jp/naha/nature/mat/data/m_5/2nd/131217cn.pdf

[15] “A report to the Japanese Ministry of the Environment and the Japan Wildlife Research Center on the likelihood of Natural World Heritage values in the Ryukyu Islands”と” Report on visit to the Amami and Ryukyu Islands, Japan“が文書名である。

[16]主な報道は以下のとおり。”Australia scrubbed from UN climate change report after government intervention”https://www.theguardian.com/environment/2016/may/27/australia-scrubbed-from-un-climate-change-report-after-government-intervention (May 26, 2017)

”UN tries to hide involvement in deleting Australia from its climate report”

https://www.theguardian.com/environment/2016/aug/02/un-tries-to-hide-involvement-in-deleting-australia-from-its-climate-report(August 1, 2016)

[17] ・沖縄タイムス 「国、米軍との文書 不開示 やんばる国立公園登録巡り 文書名・件数も公開せず」(2016年11月1日)・琉球新報 「環境省、文書不開示 やんばるの世界遺産関連 「米軍の信頼損なう」」(2016年11月2日)http://ryukyushimpo.jp/news/entry-387350.html

・沖縄タイムス 社説「[米軍協議不開示]存在意義否定の環境省」

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/69345

・琉球新報 社説 「環境省文書不開示 自然保護の責務を果たせ」(2016年11月5日)

http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-388790.html

英語版:Ministry of Environment says disclosure of Yambaru world heritage documents would damage relationship of trust with US military http://english.ryukyushimpo.jp/2016/11/08/25984/.

・朝日新聞連載「やんばるの森をたどって:8)森としては一体なのに」(2017年5月31日) http://www.asahi.com/articles/DA3S12965806.html

[18] 「世界遺産一覧表記載推薦書 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(日本政府、2017年1月), p.86.

[19]科学委員会の議事要旨は環境省那覇自然環境事務所のウェブサイトに掲載されている。http://kyushu.env.go.jp/naha/272%E8%AD%B0%E4%BA%8B%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf

[20]「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地に対する質問状」http://www.nacsj.or.jp/katsudo/yambaru/2017/01/post-16.html (2017年1月12日)

[21] 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界遺産一覧表記載推薦書―付属資料―」(日本政府、2017年1月), pp1-8.

[22] IPPレポート6 「北部訓練場過半の返還実施案調査で非公開資料入手」http://ipp.okinawa/2016/12/25/report-006/

[23] 例として、Jeffrey Sasha Davis, Jessica S. Hayes-Conroy and Victoria M. Jones, “Military pollution and natural purity: seeing nature and knowing contamination in Vieques, Puerto Rico”, GeoJournal, Vol. 69, No. 3, Military natures: Militarism and the Environment (2007), pp. 165-179.

[24] 高江ヘリパッド建設に関するNGO、学会、専門家からの要望、意見書は沖縄・生物多様性市民ネットワークの2011年2月16日ブログ記事参照http://okinawabd.ti-da.net/e3263392.html

[25] Yosiaki Ito, Kuniharu Miyagi and Hidetoshi Ota “Imminent extinction crisis among the endemic species of the forests of Yanbaru, Okinawa Japan” (Oryx,Vol 34, No. 4 October, 2000).

[26]Environmental Review for Basing MV-22 Aircraft at MCAS Futenma and Operating  in Japan(MV-22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー )沖縄防衛局ウェブサイトhttp://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/kikaku/kankyourebyu.html

[27] Marine Corps Base Camp Smedley D. Butler MCIPAC Installations, Okinawa, Japan  Integated Natural Resources and Cultural Resources Management Plan, EMP 12.1, Version 3 (April, 2014).

[28] この件に関しては稿を別にする。

[29]沖縄県「さあ、世界へ 目指せ!!世界自然遺産」http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/sekaishizenisan/

[30]この問題は筆者による「沖縄県とIUCNのやりとり(辺野古新基地建設と世界自然遺産登録)についての意見」(2017年9月11日)を参照。http://ipp.okinawa/に掲載予定。

[31] 沖縄県「沖縄県米軍基地環境調査ガイドライン」http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/seisaku/kichikankyo/about_guideline.html

[32] 沖縄県「米軍基地環境カルテ」http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/seisaku/karte.html

[33] ほとんどが沖縄県の資料が出典であり、特に新しい情報はない。

[34] “Letter of Concern and Request Inscription of Yanbaru Forest as a World Natural Heritage Site”(2016年12月4日Okinawa Environmental Justice Project記事) http://okinawaejp.blogspot.jp/2016/12/launched-in-november-2016-okinawa.html?spref=bl 

和訳は「合意してないプロジェクト」“Okinawa Environmental Justice Project/ 沖縄環境正義計画”(2016年12月8日)を参照。http://www.projectdisagree.org/2016/12/okinawa-environmental-justice-project.html

[35] NGOs letter, “U.S. military must not jeopardize Okinawan forest’s bid for World Heritage status,”

http://www.japantimes.co.jp/community/2017/02/01/voices/u-s-military-must-not-jeopardize-okinawan-forests-bid-world-heritage-status/#.WJJWkIXyeliThe Japan Times, Feb 1, 2017) この要求は、推薦された「沖縄本島北部」は、UNESCO世界遺産条約や同条約の運用指針において二カ国以上での共同の取組みが奨励される「transboundary nominations」に該当するものである、という見解を根拠にしている。現時点で米軍からの回答はまだない。

[36]「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産推薦地の視察に関する要望書 」http://www.nacsj.or.jp/archive/2017/03/3830/ (2017年3月24日)

[37]”UN asked Australia to cover up Great Barrier Reef lobbying” (August 1, 2016)

UN asked Australia to cover up Great Barrier Reef lobbying

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寄稿 今日のダイオキシン問題:沖縄の枯れ葉剤・サッカー場問題から

寄稿紹介

 川尻 要氏 (埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所・客員研究員) の寄稿レポート「今日のダイオキシン問題:沖縄の枯れ葉剤・サッカー場問題から」を掲載する。

 川尻氏は、筆者が共同代表を務めていた沖縄・生物多様性市民ネットワークのノレッジカフェ 「沖縄市サッカー場から考える:未来世代への責任を果たすために」(2015年11月7日)の講師として来沖した際、高濃度のダイオキシンが検出されたサッカー場を見学し、その空間を「青空の下の異常さ」と驚きをもって描写した(下記に貼り付けた沖縄タイムスの論壇参照)。私たちは、その風景に半ば慣れきっていたことを、ダイオキシンを扱う科学者から知ったのであった。 

 このレポートは、ダイオキシンの基礎研究から見出された新しい知見が提示されている。その知見は、私たちが持つ、これまでのダイオキシンによる疾患の限られたイメージ(がん、先天性障害)を覆すものである。これは、ダイオキシンの問題は研究の世界でも、終わったものではないということを意味しているだけではなく、新しい知見が、私たちの社会的行動の方向性を変えていくものであることを示している。それは、「影響は少ない」という常套句で問題を矮小化する行政へ、いかなる反論ができうるかという可能性を示すものとなるはずである。専門用語が並ぶ部分は、難しく感じるかもしれないが、科学的知見を持つ専門家と、それを活かす市民の関係を考える上でも示唆となるものであるので、ぜひ読み進めていただきたい。

 稿の最後では、化学物質の影響に警鐘を鳴らしたレイチェル・カーソンの時代からたどり、私たちが今、どのような世界を生きているかを自覚させられる。そして、社会が創り出す「社会的病気」をとりのぞく必要が語られている。その歴史から私たちが何を学びとれるか、その責任が問われているといえる。

 また、最後の章では、沖縄市が、複雑な議論を避け決定過程を説明することなく、サッカー場に戻さずに駐車場と決定した結末についても、批判的な論考が述べられている(下記の記事参照)。 

 行政はサッカー場を駐車場に利用変更をしたことで、厄介な空間に物理的にフタをして終わりとできたと考えているかもしれない。しかし、私たちがこのように考察を重ね、それを声としていくことが、フタを閉じさせないことを意味する。その可能性も示してもらった寄稿であると思う。

2015年11月7日沖縄市サッカー場にて(川尻氏と河村) 私たちに力となる知を共有していただいた川尻氏に、深く感謝したい。

The Informed-Public Project 代表  河村 雅美

 

The Informed-Public Project 寄稿 レポート2017年7月7日

『今日のダイオキシン問題:沖縄の枯れ葉剤・サッカー場問題から』

川尻 要(埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所・客員研究員)

はじめに
1. ダイオキシン類と疾患
     1)  ダイオキシン類の被曝の歴史
     2)  ダイオキシン類は代謝されず体内に蓄積する
2. 今日のダイオキシン研究:最強毒物TCDDとAhR
     1)  TCDDに結合する受容体 (AhR) が存在する
     2)  TCDDの毒性はAhRに依存する
     3)  AhR遺伝子は動物進化の初期から保存されている
     4)  AhRは生存に必要な生物機能を持っている
     5)  TCDDによる新たな疾患が明らかになりつつある
     6)  発生初期のTCDD被爆はその後の成長に影響する
     7)  AhRは免疫にも働いている
     8)  環境中の異物は免疫疫能に影響を与える
     9)  AhRと腸管での免疫機能
     10) 腸内細菌・AhR活性化物質・免疫細胞の関係
3. 現在生きる世界とは
     1) 『沈黙の春』と「抗生物質の冬」の同時進行
     2) 「社会的病気」の原因はできる限り取り除くことが必要である
     3) 「沖縄市サッカー場の駐車場活用」をどう考えるか?
関連記事
References(参考文献)

はじめに

 二年前の冬に私はJ・ミッチェルの著書『追跡・沖縄の枯れ葉剤』1)ジョン・ミッチェル(著)、阿部小涼(訳):『追跡・沖縄の枯れ葉剤-埋もれた戦争犯罪を掘り起こす-』、高文研 (2014)を読みました。それまで「本土」ではあまり報道されていないこともあって、私は「沖縄の枯葉剤問題」について認識していませんでした。それを機会に沖縄・生物多様性市民ネットワークの活動2)河村雅美:「米軍の負の遺産の歴史を紡ぐ-「沖縄の枯葉剤」問題から」、『歴史地理教育』、No.847, p58-75, 2016年3月増刊号を知り、ノッレジカフェでの講演や沖縄タイムスの『論壇』を通して研究者の立場からダイオキシン汚染についての見解を述べさせていただきました。

「沖縄」はベトナム戦争時において米軍の最前線基地としての役割を強いられていましたが3)石川文洋:『フォト・ストーリー 沖縄の70年』、岩波新書 1543、岩波書店 (2015)、「沖縄には枯葉剤を持ち込んだ事実はない」とする日米政府によって「枯葉作戦」への関与は否定されたままでした。J. ミッチェルと生物多様性市民ネットワークの活動によって、枯葉剤成分と人類が合成した最強の毒物として知られている2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ダイオキシン (以下TCDDと略す) を高濃度に含む腐食したドラム缶が「嘉手納基地」返還跡地である「沖縄市サッカー場」の地中から掘り起こされたことから、日米政府によって「隠蔽されていた事実」が白日の下に晒されることになりました。

「沖縄市サッカー場」からドラム缶が発掘されるほぼ2年前(2011年3月)、巨大地震とそれに伴う大津波により東日本大震災が引き起こされましたが、私たちはその後に発生した福島第1原子力発電所の「メルトダウン」に至る大事故に直面することにもなりました。そこで目撃されたことは「政府・東京電力・科学界・マスメディア」が一体となった意図的な情報隠しと、「国策」としてなされてきた「原発」政策の無責任さでした。私たちは「日米地位協定」と「国策」の下においては、不都合な事実は「権力的に隠蔽される」ことを記憶しておかねばなりません。「表現の自由」に関する国連報告者も「報道の自由度(世界72位)と国民の知る権利促進のための対策が必要」と政府に強く求めています。

 私は「原発」事故以降の「この国」では市民の生命や健康の価値がひどく軽んじられるようになった、と感じています。放射性物質とTCDDは性質の全く異なる危険物質ですが、ヒトを含めた生物への影響は非常に類似していることが以前の被曝事故の検証から指摘されています。「原発」事故による低線量放射線や低濃度ダイオキシン類に長期的に被曝することによって生じる毒性の影響は、胎児や小児、および未来世代に現れることが最も懸念されることです4)綿貫礼子(編)、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン:『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの-「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ』、新評論 (2012)。成人への「便宜的」な「急性」症状への許容被曝レベルを設定し、「この程度の汚染レベルでは当面の生命・健康に悪影響を与えない」と繰りかえすことによって、本来的には環境中に存在してはいけない危険物の存在を社会に許容させ、未来世代や「慢性」疾患への争点化を意図的に封じ込める国・行政の姿勢は批判せざるを得ません。

 最近の生物学・基礎医学の研究から見出された新たな知見からは、これまでの典型的なダイオキシン類の毒性のほかに、以前では個人的な体質と考えられていた症状や生まれつきの障害、原因不明とされるある種の疾患が「ダイオキシン類によって影響される」ことを示唆する結果が報告されています。行政側が発する「悪影響を与えない」という科学的根拠は示されず、将来的に発症するかもしれない可能性を頭ごなしに否定することに大きな疑問を感じています。特に、ヒトを含めた動物の発生の初期にダイオキシン類に被曝することは生命・健康に取り返しのつかない状況を招きかねないことを認識する必要があり、市民はもとより、政治・行政に携わる人々やその家族、さらにはアメリカ軍人にも総じて降りかかることです。

私は、『今日のダイオキシン問題』5)川尻 要:『ダイオキシンと「内・外」環境-その被曝史と科学史-』、九州大学出版会 (2015)において毒性に関する歴史と最近の科学的情報を提供し、沖縄の皆さんがダイオキシン汚染問題を考えるための一助にしていただければ幸いと思います。また、稿の終わりに「沖縄市サッカー場が駐車場として再活用される」ことについての私の見解を論じました。

 1. ダイオキシン類と疾患

1)  ダイオキシン類の被曝の歴史

 TCDDの毒性がはじめて報告されたのは今から60年前のことですが、世界の人々に毒性の示す強烈なインパクトを与えたのはベトナム戦争時の枯葉作戦 (1962-1971) で健康被害が明らかにされてからです。枯葉剤としては第二次世界大戦時に対植物兵器として開発された農薬2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)や2,4,5-T(2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸)が主に使用され、オレンジ剤はそれらが等量の割合で混ぜられたものでした。TCDDは特に2,4,5-Tの製造過程で生じる不純物であり、その毒性として発がん促進、催奇形性、生殖異常などが当初から指摘されていました6)綿貫礼子、吉田由布子:『未来世代への「戦争」が始まっている-ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ-』、岩波書店(2005)

 また、1968年には西日本一帯、特に北九州地方で当時のカネミ倉庫が製造・販売した食用油を摂取した1万人を超える人々が、皮膚疾患や「病気のデパート」とも呼ばれたようなさまざまな健康被害を訴えた「カネミ油症」食品公害事件が発生しました。その被害者からは「黒い赤ちゃん」が生まれ、次世代にも健康被害が生じたことから、社会に強い衝撃を与えました。原因として食用油の脱臭のために熱媒体として使用されたPCB(ポリ塩化ビフェニール)から加熱によってダイオキシン類のPCDF (ポリ塩化ジベンゾフラン) が生じ、これらが破損した伝熱管の穴から食用油に混入したことが後に明らかにされました7)川名英之:『検証・カネミ油症事件』、緑風出版(2005)

 1976年にはイタリア ミラノ近郊の農薬工場が爆発し、セベソ地区を中心とした地域に数十キログラムともいわれるTCDDとその類似物質が空中に飛散し、住民と環境を汚染しました。汚染のひどい地域の土壌は表面を削り取られて撤去され、新しい土壌に置き換えられました。すでに事故から40年以上が経過していますが、従来から観察された疾患のほかにTCDDの長期的暴露による生殖異常、発達障害、およびさまざまな慢性疾患への影響が指摘されています8)綿貫礼子、吉田由布子:『未来世代への「戦争」が始まっている-ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ-』、岩波書店(2005)

 2004年には当時のウクライナ大統領であったV. ユフチェンコがTCDDを投与され、その顕著な皮膚疾患 (クロルアクネ) の様相が報道されて世界に驚きをもたらしました。

 さらに、我が国ではダイオキシン類の総排出量がゴミ焼却規制の遅れにより’90年代の後半に急増しましたが、その対策法の施行により改善されていることが報告されています。同時に、母乳中のダイオキシン類などの濃度も減少していることから、「ダイオキシン問題は終焉した」というような風潮が見受けられますが、「カネミ油症」食品公害事件は未解決のままです9)川名英之:『検証・カネミ油症事件』、緑風出版(2005)

2) ダイオキシン類は代謝されず体内に蓄積する

 私たちは環境からさまざまな異物の侵入に曝されていますが、生体防御機構という生命を維持するためになくてはならないシステムによって守られています。その一つとして、自然界に存在しない人工産物である低分子化合物からの毒性に対しては、おもに肝臓に存在しているP450と呼ばれるタンパク質を中心とする薬物(異物)代謝酵素系で解毒され、無害化されて体外に排泄されてその毒性から防御されています。

 しかしながら、日常生活で一般的に発がん物質と呼ばれるものは代謝されて発がん性を示すように変化し、その不安定な代謝産物ががんに関連する遺伝子群に結合してDNAに変異を生じさせ、それらが蓄積して数十年後にがんとして発症するわけです。他方、TCDDなどのダイオキシン類は非常に安定な化学物質でほとんど代謝を受けず、そのままの状態で体内に蓄積されます。また、ダイオキシン類はそれ単独ではDNAに結合できないことから、発がん物質とは異なったメカニズムで疾患が発症することになります。

2.  今日のダイオキシン研究:最強毒物TCDDAhR

1) TCDDに結合する受容体 (AhR) が存在する

 すでに’70年代中ごろの生化学的研究により、TCDDと非常に強く結合するタンパク質が動物細胞内に微量に存在することが明らかにされています。このタンパク質はタバコ煙中に含まれている発がん物質であるベンゾピレン(多環芳香族炭化水素類の一種)なども結合することから、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon Receptor : 以下AhRと略す)と呼ばれることになりました。

 細胞質に取り込まれたTCDDはAhRと強く結合し、核内に移動してAhRと一緒に働くパートナー (ARNTと呼ばれるタンパク質) と共に特有な遺伝子DNA配列(異物応答配列)の領域に結合します。この周辺にはさまざまな因子が集合して複合体を形成し、相互に協力しながら遺伝子の転写を促進してmRNAが誘導され、mRNAは細胞質に移動して特有の機能を示すタンパク質に翻訳されることになります(図1)。

 したがって、TCDDに被曝することは「AhRに働き始めろ」とスイッチを強制的に入れる(核内移行の促進)ことになり、このことはAhRの活性化と呼ばれています。尚、AhRの活性化は平時においても「食物、細胞、腸内微生物などに由来する化合物」などによって生じており、生命の維持に重要な遺伝子発現を調節しています。

2) TCDDの毒性はAhRに依存する

 分子生物学的な手法によってAhR遺伝子を働かないようにした遺伝子欠損マウスが作製されています。二本の染色体上の片方のAhR遺伝子のみを欠損している(ヘテロ)雌雄マウスを交配させ、妊娠後の固有な時期にTCDDを投与して生まれてくる胎仔へのTCDDの影響が調べられました。その結果、同腹のマウス胎仔のうちで野生型の遺伝子型を二本持つ(ホモ)胎仔はほぼ確実に口蓋裂や水腎症を発症しますが、遺伝子欠損の遺伝子型をホモに持つマウス胎仔では奇形がみられません。

 また、ベンゾピレンをマウスの皮膚に塗ると、野生型マウスでは90%以上で皮膚がんを発症しますが、AhR遺伝子欠損マウスでは全く発がんしないことが観察されています。これらの結果から、AhRが細胞内に存在しないとダイオキシンの催奇形性やベンゾピレンでの皮膚がんは発症せず、AhRが毒性発現に直接的に関与していることが明らかにされています。

3) AhR遺伝子は動物進化の初期から保存されている

 一方、さまざまな動物での研究から動物の進化とAhR遺伝子との関係が明らかになってきました。AhR遺伝子はショウジョウバエや線虫などはもちろん、イソギンチャク、二枚貝、ウニなどの下等動物のゲノム中にも存在していることが見出されました。これらのことから、AhR遺伝子は6億年以上も昔の、動物が進化した非常に早い初期の時点から存在していたことが強く示唆されています。しかしながら、AhRがTCDDを結合する能力を示すのは魚類の先祖と考えられるヤツメウナギからで、それ以前の動物では結合能が見られません。恐らく、自然界に存在した海産塩化化合物の出現によって、先祖型魚類が進化した時代に(~4.5億年前)これらの化学物質と結合できる性質がAhR遺伝子に獲得されたものと考えられます。

 なお、TCDDとベンゾピレンはAhRに結合して共通した薬物代謝能を示すP450分子種を誘導することが知られていますが、このタイプのP450遺伝子(P450遺伝子数はヒトでは57種類)は単一の先祖型P450遺伝子からデボン紀(~4億年前)に分岐したと見られており、その時にはすでにAhRのTCDD結合能が獲得されていたと思われます。

4) AhRは生存に必要な生物機能を持っている

 ショウジョウバエなどの無脊椎動物のAhRはTCDDの結合能はありませんが、その発生・形態形成などの重要な働きを持つことが明らかになったことから、ヒトを含めた高等動物のAhRが持っている生物機能についての研究が急速に進展しました。AhR遺伝子が何億年もかけてTCDDの毒性を発現するためにヒトにまで保存されてきたとは考えられないからです。現在までに明らかにされている生物機能として免疫・発生・生殖・細胞の運動などがあり、生存にとり本質的な働きでもあります。この多彩な機能を裏付ける基盤として、AhRとそのパートナーのARNTが結合する異物応答配列はゲノム上に広範に存在しており、それを認識して多くの遺伝子の転写に関与しているからです。

 尚、正常な環境下では、AhRの活性化は動物の生命活動に由来するある種の化合物(緑黄色野菜成分やアミノ酸の1種であるトリプトファンの代謝産物、乳酸菌などの腸内細菌が産生する化合物など)と比較的弱く結合してプログラムされた特定の時期に、適切な量の標的とする遺伝子の転写反応を進めていることが考えられます。これに対して、TCDDなどのダイオキシン類はAhRと強く結合して予定外で強力な遺伝子発現を長期的に引き起こし、正常な生命活動の情報ネットワークに干渉・攪乱して異常なシグナルがもたらされ、多くの疾患を引き起こすことが考えられます。まさに「光」と「影」の関係です (図2)。

5) TCDDによる新たな疾患が明らかになりつつある

 以前から大気汚染と慢性疾患であるアトピー性皮膚炎との関連性が指摘されていましたが、科学的な根拠は乏しいものでした。しかしながら、大気汚染物質中に含まれるAhR活性化物質によってAhRが活性化され、アトピー性皮膚炎の痒みなどの諸症状が引き起こされる分子メカニズムが最近の研究から明らかにされました。

 従って、AhRの環境化学物質センサーとしての性質とその多様な生物機能への働きを考えると、「これまで明らかにされているTCDDの毒性はそのほんの一部にすぎないのではないか?」という素朴な疑問が生じます。実際、AhRの幹細胞制御と免疫への役割が注目されており、それにTCDDが干渉して疾患が起こる可能性が指摘されています。

6) 発生初期のTCDD被曝はその後の成長に影響する

 胚性幹細胞 (ES細胞) はすべての組織に分化する多能性と高い増殖能という性質を併せ持つ細胞です。たとえば、心臓を構成する心筋細胞への分化は多くの増殖因子や形態の形成に関与するタンパク質などが特定の時期に働いて正常な心筋細胞(分化7日以降に心筋収縮を示す)になります。しかしながら、マウスES細胞が心筋細胞へ分化する際にTCDDが存在すると、遺伝子発現が乱されて心筋の収縮が阻害されることが示されています。TCDDの影響を分化の各段階で調べたところ、ES細胞の分化開始後0~3日の間に暴露されたときにのみ心筋収縮の阻害が観察されています。その理由として、AhRによる時期特異的な増殖因子の発現誘導がTCDDの存在により抑制されることに起因しており、TCDDと同時に不足した増殖因子を添加することによって心筋収縮の阻害から回復することが示されています。また、発生初期におけるTCDDの暴露によって、マウスの成長後の心機能も影響を受けることが確認されています。

 さらに、AhRは心臓の形成に重要な働きをするタンパク質の発現も誘導しており、TCDD暴露でその発現が抑制されて先天性心疾患を示すマウスを誘発するとの報告もされています。セベソの農薬工場爆発事故においても生まれつき心臓に疾患を持つ子供が急増したことが報告されていました。

7) AhRは免疫にも働いている

 動物は病原菌やウィルスなどに由来する高分子化合物の毒素に対しては免疫の働きによって防御されています。従来、低分子化合物に対する薬物(異物)の代謝と免疫はそれぞれに働く役者(タンパク質)が異なっていたことから全く別なものと考えられてきました。しかしながら、免疫にもAhRが関与することが示され、AhRは生体防御機構の全般に渡って重要な役割を担う存在であることが明らかになってきました。

 免疫は、造血幹細胞からさまざまな種類の白血球に分化した免疫細胞によって営まれます。免疫には生まれつき体に備わった「自然免疫」10)審良静男、黒崎智博:『新しい免疫入門-自然免疫から自然炎症まで-』、ブルーバックス B-1896、講談社(2014)と、生まれた後に病原体との戦いを通して身に着く「獲得免疫」11)岸本忠三、中嶋 彰:『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』、ブルーバックス B-1955、講談社 (2016) があります。「自然免疫」では病原菌などがマクロファージや好中球と呼ばれる食細胞によって捕食されて生体は防御され、「獲得免疫」は病原体を個別にピンポイントで強力にたたく働きを示し、この両者のシステムは「樹状細胞」と呼ばれる細胞で機能的に繋がれています。すなわち、病原体を食べて活性化した樹状細胞は「未熟」なT細胞(ナイーブT細胞と呼ばれる)に病原体の情報を伝えて(抗原提示)、数種類の働き方の異なる成熟した働きを持つヘルパーT細胞へと分化を促進します。 

 ヘルパーT細胞は総じて免疫を促進する作用を示しますが、その中でも活性化17型ヘルパーT細胞 (Th17細胞) は感染免疫(細胞外細菌やカビの排除)や炎症反応に働きます。ウィルスや寄生虫などには別のタイプのヘルパーT細胞が働きます。同時に、ナイーブT細胞からは制御性T細胞 (Tレグ細胞) と呼ばれる細胞も分化しますが、この細胞は免疫・炎症作用に抑制的に働きます。

 全体として免疫機能のバランスによって恒常性は保たれていますが、免疫が過剰になるとアレルギー、炎症性疾患、自己免疫疾患になり、逆の場合には免疫不全や発がんしやすくなります。尚、固有なヘルパーT細胞やTレグ細胞への分化は、それぞれ異なった性質をもつサイトカインと呼ばれる細胞間で情報を伝え合う物質が存在する環境下で進行します。

8) 環境中の異物は免疫疫能に影響を与える

 AhRは「獲得免疫」で重要なナイーブT 細胞の分化に中心的な役割を演じています。特に免疫促進のTh17細胞と、免疫抑制のTレグ細胞への分化はAhRの存在が必要であり、その方向性はさまざまなAhR活性化物質で大きく影響を受けます。TCDDは強力な免疫抑制作用を持つことが知られていますが、それは一連の反応で進行します。TCDDは樹状細胞のAhRと結合して免疫抑制酵素を誘導し、この酵素の働きによってアミノ酸の1種のトリプトファンから生じた産物(キヌレニン)がナイーブT 細胞のAhRと結合してTレグ細胞の分化に重要なマーカーであるタンパク質を誘導するからです。その結果、胸腺縮退などの免疫毒性や、リンパ・血液系のがんが誘発されやすくなることが報告されています。

 また、自己免疫疾患の多くは発症機序がよくわかっていないのですが、関節リウマチはTh17細胞の炎症亢進と考えられ、T細胞でのみAhR遺伝子を欠損させたマウスではリウマチが抑制されることが報告されています。さらに多発性硬化症のモデルマウスでは投与したAhR活性化物質の種類により症状が変化し、免疫抑制のTレグ細胞を誘導する化合物では改善、免疫促進のTh17細胞を誘導する物質では悪化することが報告されています。

 上の例でも示したように、これまで私たちの体質とも思われていた免疫能も、環境中の異物 (TCDDなど) がAhRに作用して影響を受ける可能性があることは極めて重要なことです。また、これらの免疫応答に働くタンパク質をコードしている遺伝子の多くにAhRが結合する異物応答配列が見られ、Th17細胞では炎症性の、Tレグ細胞では抗炎症性のサイトカインが産生されます。

9) AhRと腸管での免疫機能

 腸管は食物を消化・吸収するという働きがあり、食物に紛れ込んだ細菌やウィルスの体内侵入を阻止しなければなりませんし、無害な異物・常在菌に対しては必要以上に反応しないことも重要です。腸管には免疫細胞の50%以上が存在しているといわれており、免疫機能が最も盛んな器官の一つです。これまでに述べてきた免疫細胞のほかにも自然免疫リンパ球様細胞 (ILC3) や上皮内リンパ球細胞 (IEL) が存在し、AhRはリンパ濾胞などの二次リンパ組織の構築や病原菌防御などに働いています。この際、AhRは食餌成分や乳酸菌の産生物を活性化物質として利用し、炎症性サイトカインを産生して病原菌防御の働きを促進しています。AhR遺伝子が欠損したマウスではマウス腸病原菌に対する感受性が著しく高まります。

10) 腸内細菌・AhR活性化物質・免疫細胞の関係

 腸内細菌はその多くが嫌気性であり、培養法を含めて研究には多くの困難がありました。近年のDNA塩基配列技術の向上により、直接的な分離と培養をしなくても体にいる微生物種をDNA配列から特定可能になり、「無菌マウス」の体内に単一、または複数種の細菌を群生させて、それぞれの微生物がマウスにどのような影響を与えるかについての知見が得られるようになりました。このような「ノトバイオート・マウス」研究を基礎に、微生物がヒトでいかに働いているかを類推することが可能な時代になってきたわけです。

 また、マウスでは特定の腸内細菌が腸の固有な領域に生存し、免疫機能に影響を与えていることが明らかになってきました。たとえばある種の常在菌は小腸に好んで生育し、その産生物が樹状細胞に認識されてTh17細胞への分化を促進し、他方、別な菌は結腸側に生存して免疫抑制作用を示すTレグ細胞への分化を促進していることが報告されています。免疫細胞の分化においてはAhRも誘導され、食物中のトリプトファンや緑黄色野菜成分、微生物などに由来する代謝産物がAhR活性化物質として機能し、免疫細胞の分化、病原菌感染防御などのさまざまな働きを支えるサイトカインを産生してそれぞれ免疫促進や抑制に働きます。腸内細菌とAhR活性化物質、および主な免疫細胞との相互関係を図3として示しました。マウスではAhRが宿主・腸内細菌の恒常性維持に中心的な役割を演じていることが示唆されています。

3. 現在生きる世界とは

1)『沈黙の春』と「抗生物質の冬」の同時進行

 カーソンが『沈黙の春』12)Carson R. “Silent Spring”, Houghton Mifflin, USA (1962) レイチェル・カーソン (著)、青樹簗一 (訳):『沈黙の春』、新潮社(1974)を著わし、「第二次世界大戦後のDDTなどの農薬類を中心とした人工化学物質の大量拡散は生態系の破壊と最終的にはヒトへの影響をもたらす」と世界に問題提起を発してからすでに50年以上が経過しています。その警告が現実化した最悪なものとして「枯葉作戦」があり、TCDDの毒性がクローズアップされることにもなりました。また、第二次世界大戦の勃発とともに殺菌効果を有する薬剤の開発は兵士を救うための喫緊の課題となり、ペニシリン産生カビ大量培養法の開発につながりました。これを契機としてさまざまな抗生物質の開発が進められ、今日までの現代医療の大きな進歩の基盤ともなりました。しかしながら、米国国立衛生研究所を中心とした2008年から8年間に及んだヒトマイクロバイオーム・プロジェクトの研究成果から、抗生物質が多くの医療現場で「念のため」と予防的に過剰使用されてきたことによる深刻な副作用が指摘されることになりました13)The Human Microbiome Project Consortium. Structure, function and diversity of the healthy human microbiome. Nature, 486, 207-214 (2012)

 微生物学者であるM. ブレイザーは「過剰な抗生物質の使用で耐性菌の出現・拡散と共に、私たちと共生してきた体内微生物の多様性が喪失して私たち自身の代謝や免疫、認識に影響を与え、同時に微生物叢自体の発達に影響を与える」と指摘し、そのような状況を「抗生物質の冬」と呼んでいます14)マーティン・J・ブレイザー (著)、山本太郎 (訳):『失われてゆく、我々の内なる細菌』、みすず書房 (2015)。また、科学ジャーナリストのA. コリンも「20世紀後半から先進国で急増している肥満、過敏性腸症候群、糖尿病、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症などの病気はヒト体内に存在している微生物の生態系の様相が以前とは変わってしまったことに起因し、おもに免疫系の過剰反応と腸疾患としてあらわれている」と警告しています15)アランナ・コリン (著)、矢野真千子 (訳):『あなたの体は9割が細菌-微生物の生態系がくずれはじめた-』、河出書房新社 (2016)

 農産物の生産性向上や感染症防御のために開発された農薬や抗生物質の過剰使用によって、ヒトを取り巻く生態系と内なる生態系(体内微生物)の多様性が同時進行的に破壊されつつあるという危機に対し、私たちは社会的・個人的に適切な対応を具体化することが求められています。抗生物質の重要性は現代医療の中核的な位置を占めており、その厳密な使用による削減と家畜への成長促進目的での使用禁止が求められ、これらはスウェーデンや欧州連合ではすでに実現していることです。

2)「社会的病気」の原因はできる限り取り除くことが必要である

 私たちの社会では半世紀前に比べて科学・技術が発展し、医療水準も向上して昔では確実に死に直面するような疾患からも命が救われるようになりました。しかしながら他方では、以前では見られなかった新たな「社会的病気」を作り出してきたことも事実です。たとえば、IT社会の過剰なストレスによるうつ病などの精神的「病」、化学物質による過敏症などです。これらは極めて個人的疾患として扱われる傾向があり、時として無視されがちです。また、「国・産業界・科学界」が一体化して「国策」として実行された政策から誘導された「社会的病気」もあります。その代表例として「原発」事故による放射能被曝があります。「福島」原発事故において最も優先的になされるべきことは被害者救済ですが、事故の原因を究明し、その責任を明確化し、「国策」を変更させることが重要であることは言うまでもありません。「この国」が壊滅する恐れさえあった「人災」を引き起こしたにも関わらず「国策」を推し進めた加害者の誰ひとりとして責任を追及されないのは「国家犯罪」とも云え、世論に反してひたすら再稼働に邁進する「政府・行政・電力会社・科学界」は「社会正義欠損症」という「社会的病気」が重症化しているのではないでしょうか。これ以上の「核のゴミ」を増やし続けることは絶対に避けねばなりませんし、「未来世代に負の遺産を押し付けるのか」という問いを発し続けることが大切です。

 また、「沖縄」の「枯葉剤問題」は、日米安保体制のもとでの「情報の隠蔽」が解決の大きな障害となっています。「枯葉剤」の貯蔵・使用・廃棄された場所は「沖縄市サッカー場」のほかにも確認、指摘されており16)河村雅美:Report 002「“複合投棄”という跡地の現実:沖縄市サッカー場、北谷上勢頭住宅地、読谷村整備農地」、http://ipp.okinawa/、さらなる「情報公開」を闘いとることが期待され、同時に、ダイオキシンの毒性についての知識も広く共有されることが重要です。

3)「沖縄市サッカー場の駐車場活用」をどう考えるか?

「市は沖縄防衛局がドラム缶などを県外に搬出したことや、土壌・地下水の汚染レベルも環境基準値の範囲内だったことから、汚染物質は除去されたと判断した。今後、サッカー場は駐車場として活用される」という沖縄市の新聞発表を目にしたとき17)『琉球新報』2017年5月24日付;『沖縄タイムス』2017年5月26日付、私は「日本の公害」の原点と称される足尾銅山鉱毒事件を思い出しました。栃木県・群馬県境を流れる渡良瀬川上流にあった足尾銅山では、明治時代中期ごろから古河市兵衛 [現:古河機械金属(株)] の経営のもとで生産第一主義を掲げて開発を最優先させた結果、銅精錬による亜硫酸ガスの発生と伐採のために銅山周辺の山林を荒廃させて渡良瀬川の洪水を多発させました。併せて、鉱毒を含む廃棄物を同河川に大量に投棄したことから、川魚の大量死や下流域での農作物の甚大なる被害をもたらして農民の生活を困窮させ、健康被害も顕在化するに及んで多くの農民を鉱毒反対運動に立ち上がらせることになりました。この運動は地元の衆議院議員田中正造が中心となり、議会活動や明治天皇直訴などによって鉱毒反対・操業停止を世論に訴え続け、明治時代では最大ともいえる社会問題となりました。しかしながら、当時の明治政府はあらゆる局面で日露戦争に向けて国民的な動員をはかっていた時期でもあり、鉱毒反対運動の弾圧と洪水対策という一石二鳥の効果を狙って土地収用法を適用し、栃木県と謀って最も激甚な鉱毒と洪水被害に晒されていた谷中村を強制破壊・遊水池化して農民もろとも圧殺しました 18)荒畑寒村:『谷中村滅亡史』、岩波文庫(1999)。旧谷中村は、明治政府の「失政の遺跡」ともいうべき鉱毒沈澱池として現在にいたっています。

 また、大洪水と鉱毒被害はその後も繰り返されており19)東海林吉郎・菅井益郎:『新版 通史・足尾鉱毒事件1877~1984』、世織書房(2014)、記憶に新しい3.11の大地震でも「鉱毒を含む鉱滓や廃石が源五郎堆積場から崩壊して渡良瀬川に流出し、川水からは環境基準値の約2倍の鉛が検出されて地域住民の生活を脅かした」との報道がなされています20)『朝日新聞』2011年3月13日付(栃木版)。これらの事実を踏まえて、「足尾の鉱毒被害は現在に至っても実質的には何一つとして解決を見ていない。それはあたかも終わったかのように見なされているだけであり、忘れたころに繰り返される」と佐藤・田口は論じています21)佐藤嘉幸・田口卓臣:『脱原発の哲学』、人文書院 p263-313, (2016)

 私は「沖縄市サッカー場」がどのようなプロセスで急遽、駐車場に用途変更になったかを知るすべがありませんが、記事を読む限り地元の市民にもその真相は説明されていないようです。なぜ、汚染物質が安全と見なされている「環境基準値内」に除去されたにも関わらず、サッカー場を一方的に駐車場に変更するのでしょうか?本当は、使用できないほど危険性があるということでしょうか?あるいは、日米政府にとり存在しないはずの「負の遺産」が埋まっていた「沖縄市サッカー場」を「市民の記憶から抹殺」したかったのでしょうか?「面倒な事案であるから一応の調査・処理をしてアスファルトで固めて終りにしよう」という沖縄防衛局と沖縄市との裏相談を想定することはできますが、行政側にはこのような結論に至った事実経過を市民・関係者に説明する責任が求められます。

 私は今回の処置はその本質において、たとえ規模や被害の実態などにおいての大きな違いはあるにしても、明治政府が谷中村を強制的に廃村・遊水池化したことに匹敵する行為であると考えざるを得ません。「大日本帝国憲法」のもとで「富国強兵」・「殖産興業」政策を進め、国家・行政・古河資本が一体化した足尾銅山による鉱毒事件・洪水被害では多くの農民の生活を困窮させて健康被害をもたらしたにも拘らず弾圧で答えた明治政府と、東アジアの安全保障問題では異常なほど危機感をあおりながら「憲法改正」を主張し、辺野古や高江では市民の弾圧下で米軍基地の再編強化に突き進み、日米地位協定のもとで米軍基地跡の「負の遺産」を隠蔽し続け、露見するや現場をアスファルトで埋めつくして「何もなかった」ことを演出する安倍政権の姿勢は同類にも映り、「戦後民主主義」を感じさせる匂いもしないと思うのは決して私だけではないでしょう。

2015年7月10日 沖縄市サッカー場から沖縄南インター方向を撮影

2015年11月7日 沖縄市サッカー場から沖縄南インター方向を川尻氏と共に視察

2017年7月8日 沖縄市サッカー場から沖縄南インター方向を撮影

References   [ + ]

1. ジョン・ミッチェル(著)、阿部小涼(訳):『追跡・沖縄の枯れ葉剤-埋もれた戦争犯罪を掘り起こす-』、高文研 (2014)
2. 河村雅美:「米軍の負の遺産の歴史を紡ぐ-「沖縄の枯葉剤」問題から」、『歴史地理教育』、No.847, p58-75, 2016年3月増刊号
3. 石川文洋:『フォト・ストーリー 沖縄の70年』、岩波新書 1543、岩波書店 (2015)
4. 綿貫礼子(編)、吉田由布子、二神淑子、リュドミラ・サアキャン:『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの-「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ』、新評論 (2012)
5. 川尻 要:『ダイオキシンと「内・外」環境-その被曝史と科学史-』、九州大学出版会 (2015)
6, 8. 綿貫礼子、吉田由布子:『未来世代への「戦争」が始まっている-ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ-』、岩波書店(2005)
7, 9. 川名英之:『検証・カネミ油症事件』、緑風出版(2005)
10. 審良静男、黒崎智博:『新しい免疫入門-自然免疫から自然炎症まで-』、ブルーバックス B-1896、講談社(2014)
11. 岸本忠三、中嶋 彰:『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』、ブルーバックス B-1955、講談社 (2016)
12. Carson R. “Silent Spring”, Houghton Mifflin, USA (1962) レイチェル・カーソン (著)、青樹簗一 (訳):『沈黙の春』、新潮社(1974)
13. The Human Microbiome Project Consortium. Structure, function and diversity of the healthy human microbiome. Nature, 486, 207-214 (2012)
14. マーティン・J・ブレイザー (著)、山本太郎 (訳):『失われてゆく、我々の内なる細菌』、みすず書房 (2015)
15. アランナ・コリン (著)、矢野真千子 (訳):『あなたの体は9割が細菌-微生物の生態系がくずれはじめた-』、河出書房新社 (2016)
16. 河村雅美:Report 002「“複合投棄”という跡地の現実:沖縄市サッカー場、北谷上勢頭住宅地、読谷村整備農地」、http://ipp.okinawa/
17. 『琉球新報』2017年5月24日付;『沖縄タイムス』2017年5月26日付
18. 荒畑寒村:『谷中村滅亡史』、岩波文庫(1999)
19. 東海林吉郎・菅井益郎:『新版 通史・足尾鉱毒事件1877~1984』、世織書房(2014)
20. 『朝日新聞』2011年3月13日付(栃木版)
21. 佐藤嘉幸・田口卓臣:『脱原発の哲学』、人文書院 p263-313, (2016)

6月4日「沖縄の基地と環境汚染 ーその現状・ポリティクス・知る力」@東京

米国内外の基地汚染問題となっているPFOS(有機フッ素化合物)汚染。沖縄でも現在嘉手納基地周りの水源が汚染されている。沖縄県の米軍への状況説明に使われた地図。


沖縄関係学研究会・近現代東アジア研究会 講演のご案内

「沖縄の基地と環境汚染ーその現状・ポリティクス・知る力」

2017年6月4日(日)13時30分〜18時
津田塾大学 千駄ヶ谷キャンパス

 沖縄と日本の関係を示す歴史的な節目が、権力によって更に分厚く上書きされているように感じます。だからこそ、現在何が本当に起きているかを知らなければならない、私たち市民が「知る力」を持ちたい。
 
 今回、研究会では、沖縄から環境問題について調査・分析・発信しているIPP(The  Informed -Public Project)の河村雅美さんから、沖縄の基地と環境の問題について、主に基地汚染問題についての現状とそれをめぐるポリティクス、また市民がどのように事実を知ることができるのか、お話をうかがいます。トランプ政権成立後のアメリカについて、米軍基地を抱える沖縄の環境問題から考えていくことが、この政権権力との向き合うヒントになるでしょう。

 事前の研究会では、短い時間ですが、今春提出された卒業論文の発表も行われます。
 
 沖縄からの声を聞き、様々な世代・立場で集まり、語り合おう、車座になって。
お忙しい時期と存じますが、どうぞ、ご参集ください。また研究会について、関心のある周りの方々にご回覧くださいますよう、お願いいたします。

*会場・資料準備の都合上、参加される場合は、予めご連絡いただけましたら助かります。

日時:2017年6月4日(日)13時30分〜18時
  (13:30~卒論発表、14:45~講演会)
会場:津田塾大学 千駄ヶ谷キャンパス SA201教室
   (JR総武線 千駄ヶ谷駅より徒歩5分)

卒論発表(13:30-14:30)
東洋大学 栗橋悠介さん「南洋群島の企業と日本の南進」
津田塾大学 尾池花菜さん「琉球民族の現代的創出―琉球民族独立総合研究学会の誕生」

講演会(14:45~17:45)
「沖縄の基地と環境汚染ーその現状・ポリティクス・知る力」
講師:河村雅美さん(The Informed-Public Project)

 
The Informed-Public Projectについて:
  • The Informed-Public Project(インフォームド・パブリック・プロジェクト, IPP)は、沖縄をベースにした調査団体/メディアです。主に米軍基地汚染等の環境問題をテーマに活動しています。
  • The Informed-Public Project に込められた意味は、市民の「知る力」をつけていくプロジェクトです。安全で安心して暮らせる公正な社会には、行政や既存のメディアの情報に頼ることなく、市民が情報を自ら入手、分析し、その結果を発信する力を持つことが必要です。基地問題は、隠蔽、行政による問題の矮小化の傾向があるため、ウォッチドッグの役割を市民が担うことが求められます。
  • その役割を果たすべく、公開情報を精査し、情報公開制度等でさらに情報を入手し、調査・分析し、県内のメディアとウェブでその結果を公表する、という調査報道的なスタンスで活動しています。
  • 米軍基地問題は事故、事件が既存のメディアで大きく扱われる一方、IPPの調査は、米国、日本政府、沖縄県、市町村間の関係の政治力学の中で何が起きているのか、の構造的な問題の現状把握に焦点を当てているところが特徴です。
  • 既存メディアでは光の当たらない部分に光を当て、追及のための追及に終わることなく、現実的なアジェンダ設定を見すえた活動を目指しています。
<これまでの主な調査>
  • 嘉手納基地汚染由来と推測されているPFOS(有機フッ素化合物)の水源汚染の問題では、沖縄県の米軍への要望を矮小化し、沖縄防衛局が米軍に文書を出していたことを明らかにし、日本政府の役割、機能そのものを問題化。PFOS問題は現在、米国内外の米軍基地で問題になっている。
  • 沖縄の枯葉剤問題も追及中。読谷村の米軍読谷飛行場跡地の汚染問題では、非公開であった汚染のデータのみでなく、投棄物が米軍由来と認定しない日本政府、汚染を放置したまま農地整備事業を進めていた県や読谷村という複雑な無責任構造を問題化。「複合汚染」「複合投棄」という沖縄の返還跡地の複雑な特質も明らかにする。
  • 国際機関との関係も射程に含め、琉球諸島と奄美の世界自然遺産登録の推薦手続きで、課題とされている米軍北部訓練場の問題、オスプレイ、高江のヘリパッド問題を避け続けたまま、説明責任を果たさない環境省の姿勢を情報公開請求で追及中。
  • 詳細はIPPのウェブを参照:http://ipp.okinawa

問い合わせ先:沖縄関係学研究会 okikanken2016@gmail.com

2013年6月に枯れ葉剤製造会社の印章のあるドラム缶が発見された沖縄市サッカー場。ドラム缶から内容物からは枯れ葉剤成分が検出。浄化後、サッカー場に戻ることはない。

Report 006 北部訓練場過半の返還実施案調査で非公開資料入手

防衛省提出資料 北部訓練場返還実施計画案(2016年10月18日)について
Report No.6 北部訓練場過半の返還実施案調査で非公開資料入手

The Informed-Public Project 代表 河村雅美 

 The Informed-Public Projectは、北部訓練場過半の返還の実施計画案についての調査を聞き取りと文書で行った。

 調査により、返還予定地の所有の8割が林野庁であること、実施計画案は沖縄防衛局が沖縄県、東村、国頭村に送付したもの以外の文書が存在していることが明らかになり、重要な事実があるためにリリースした。

 このリリースは、発表後、以下の記事になった

 沖縄タイムス「米軍基地の汚染除去、国が範囲限定へ 北部訓練場返還で」(2016.11.16) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71310

 沖縄タイムス「社説[北部訓練場汚染調査]枯れ葉剤を対象とせよ」(2016.11.17) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71482
  

 以下、リリース時のIPP見解である(2016年 11月14日 )。 

1.  地権者が林野庁であることによる懸念

 北部訓練場過半の返還は跡地利用特措法を根拠法として実施され、「返還実施計画」の手続きが同法の8条に基いて行われる。

 実施計画案に県知事は1ヶ月後、東村長、国頭村長は、2ヶ月後に意見を提出する。 県知事意見は、沖縄県の庁内で関係部署からの意見を集約して提出することになっているとのことであった(2016.10 沖縄県企画調整課)

 市町村は返還予定地の地権者からの意見を集約し、提出する。東村の地権者は林野庁、国頭村の地権者は50人程度であるとのことであった(2016.11.2 東村、国頭村)。国頭村は聞き取りの時点では地権者の意見を聞く方法も模索中であり、意見の決定過程も町議決定となるか、上意決済になるかも未定ということであった。

 農林水産省林野庁への聞き取りによると、東村、国頭村の返還予定地の大半の国有林の所有者は林野庁であるとのことであった(2016.11.10林野庁業務課藤平)。所有者の林野庁と沖縄防衛局の関係については、林野庁は「国」の方に属するため、意見書を東村に出すことはないとの見解を示した。

 また、返還後の利用計画は返還後の議論であるとしながらも、林業地として使うよりは、貴重な自然としての森林として利用することを考えているとのことであった。報道によれば東村と国頭村が部分返還の対象地をやんばる国立公園に早期に編入することを求めているということである(琉球新報、2016年10月18日)。

 ここで懸念されることは、米軍基地跡地を自然保護区にして汚染調査がおざなりになることである。以下の理由による。
 (1)国から国の返還であること
 (2)他国で相似の事例があり、問題として指摘されていること。

 例えばプエルト・リコのビエケスの海軍の演習場が18000エーカーの大半が内務省(the U.S. Department Interior)に移管され、野生生物保護区に指定された例がある。年間180日以上実弾訓練を実施していた地域であるにも関わらず、保護区として利用することにより、浄化の要件が表層的なものとなる、政治的な跡地利用の例である(追記:この件は別途問題化する)。

 おざなりになることで、安全・安心の確保ができないことは言うまでもない。米軍の北部訓練場の運用による汚染や環境破壊は当然予測されることである。米軍の責任を今後問う事例としても詳細なデータは必要である。それを把握することは、日米地位協定で免除されている米軍の「原状回復」の義務を今後果たさせる道筋をつけるためにも重要である。

2. 「支障除去措置」の問題

 メディアには公表していない沖縄防衛局の関係自治体への説明文書「北部訓練場の過半の返還について」を国会議員赤嶺政賢事務所から入手した。

 実施計画案にはない情報が入っており、以下のような計画が明らかになっている。

沖縄防衛局説明文書「北部訓練場の過半の返還について」

支障除去措置の進め方
 北部訓練場の返還予定地は「やんばる国立公園(仮称)」に隣接し、貴重な動植物及び天然記念物などが生息 しているため、環境に十分配慮した上で支障除去措置を実施する必要があることから、土壌汚染調査等を実施する際は、関係機関等と相談しながら進める必要がある。

支障除去措置の主な範囲

 支障除去措置の内容については、資料等調査及び概況調査の結果により決定するものであるが、現時点にお いて、支障除去措置を実施する必要があると考える主な範囲は以下のとおり。
①米軍車両の通行があった道路
②既存のヘリパッド及びその周辺
③土壌汚染等の蓋然性が高いと考えられる過去にヘリが墜落した場所

IPPが入手した 北部訓練場の過半の返還についてH28・10月 沖縄防衛局

 

 まず範囲が非常に限定的に考えられている、使用していた道路、ヘリパッドと事故の墜落場所ではこれまでの例からみても、十分ではない。資料等調査や概況調査の実施前に上記のような範囲を必要範囲とする根拠も不明である。

 沖縄防衛局の資料等調査も精度に疑念がある。西普天間の返還跡地でも資料等調査での予測が外れ、ドラム缶や鉛が検出された地域が「土壌汚染が少ないと認められる土地」から「土壌汚染のおそれが比較的多い区画」に変更された前例もある(「旧嘉手納飛行場(26)土壌等確認調査(その2)西普天間住宅地区内報告書2014年12月、沖縄防衛局)。

 米軍から提供される資料が不十分であるに加え、返還される土地は米軍の投棄物が発見される例が沖縄の返還跡地の特徴であるため、汚染の事前の性格づけも困難な状態である。

 範囲を限定した調査をすることは問題であるし、それゆえに40,100,000平方メートルの調査を含む支障除去を1-1年6ヶ月で実施するのは現実的でない。後ろを決めて短期間で調査や除去を実施することは、安全・安心の面で不安が持たれるものである。

 西普天間の51haの2-3年間という予定される支障除去期間よりも短く、貴重な自然環境の残る広大な訓練場の調査の知見や経験がこれまでないにも関わらず、このような短期間で終わらせることがなぜできるのか、説明がないのも併せて問題である。

 世界自然遺産にするための国立公園化ということを考えると、杜撰な調査処理では、国際基準のハードルを越えられないことになることも2村は考える必要がある。

以上。 IPPが入手した 北部訓練場返還実施計画素案(2016年10月18日)PDFデータ20161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案01

20161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案0220161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案03

 

※このレポートは、発表後、以下の記事になった
 
沖縄タイムス「米軍基地の汚染除去、国が範囲限定へ 北部訓練場返還で」(2016.11.16) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71310
 
「社説[北部訓練場汚染調査]枯れ葉剤を対象とせよ」(2016.11.17)  http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71482

 

Report 005 琉球・奄美の世界自然遺産に関する情報開示請求について

IPP Report No5 琉球・奄美の世界自然遺産に関する環境省への情報開示請求について

河村 雅美(Dr. Masami Kawamura / The Informed-Public Project 代表)
2016年11月2日

 The Informed-Public Project は、琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する情報、特に隣接する米軍北部訓練場の問題などがどのように米国側に、および登録に関する国際機関に伝えられているか、情報開示請求制度を使って調査した。

 背景

 2016年9月15日に沖縄本島北部の国頭、東、大宜味3村にまたがる陸域と海域約1万6300ヘクタールが「やんばる国立公園」に指定された。これは世界自然遺産登録の条件である、「法的措置により、価値の保護・保全が十分担保されていること(完全性)」を満たすための日本政府の措置の一つである。

 しかし、世界自然遺産登録の過程におけるハードルはこれでクリアしたわけではない。登録への道筋の中で県民の懸念事項として挙げられている問題の一つは、国立公園に隣接している米軍北部訓練場の問題で生じる環境保全の問題という政治的な問題である。

 日本政府が米軍基地問題という政治的な問題を避けているのではないかという疑念は、市民団体から幾度か指摘されてきた。
 非公式な形では、2012年11月4日に行われた「世界自然遺産シンポジウムin那覇」でのシンポ後におけるIUCN(国際自然保護連合)レスリー・モロイ氏と市民とのやりとりがある。モロイ氏は高江のヘリパッド建設のことは承知していたが、沖縄に存在する米軍基地の全容も北部訓練場の位置や大きさも、その時点まで情報提供されていなかったことを筆者はその場で確認している。
http://okinawabd.ti-da.net/e4154949.html

 また、沖縄・生物多様性市民ネットワーク元共同代表吉川秀樹のやんばるの国立公園計画についての環境省へのパブリック・コメント(2016.3.27)では、同計画で「基本方針において『北部訓練場の問題をどうするのか』(訓練場内の自然環境のデータはどうなっているのか、訓練からの人々の生活環境への影響はどうなっているのか、国立公園設定に向けて米軍との調整はどうなっているのかなど)を明確に示す」ことを提案している[1]。吉川氏によると、具体的には、日本環境管理基準(JEGS)の運用について、バッファーゾーンの設定を想定しているとのことであった。

 一方、この問題は問題提起がされながらも、具体的に日本政府がどのように対応しているかを公けに追及することは、市民からもメディアからもされてこなかった。

 情報公開請求

 この件について、日本政府が現時点でどのように対応しているかについて調査が必要であると考え、3機関に対して、以下の情報開示請求を行った(2015年8月10日付)。いずれも2013年1月1日からの文書を請求した。

1.  環境省

  1. 国際自然保護連合(IUCN)とユネスコと環境省間の文書のやりとり
  2. 琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する会議の文書
  3. 環境省と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て

2. 防衛省

  1. 防衛省と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て

3. 沖縄防衛局

  1. 沖縄防衛局と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て
  2. (上記の追加として)沖縄防衛局と環境省那覇自然環境事務所間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て(2016年8月31日付)

開示結果

 結果の概要は以下のとおりであった。

1.  環境省

  i. 文書 2016年9月9日付
 開示された文書
(ア)TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書)
(イ)TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)
 上記以外の環境省と国際自然保護連合及びユネスコ間で交わした文書については、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は交渉上不利益を被るおそれがあり、法第5条第3号に該当するため、不開示。

 ii. 文書1(2))2016年9月9日付
 開示(1)世界遺産条約関係省庁連絡会議(平成25年1月) 

iii. 文書1(3))2016年9月9日付
 文書不開示
 理由:開示請求のあった行政文書に該当する資料は、非公開を前提とし、作成されたものであること。
 従って、法律第5条第3号に掲げる不開示情報(公にすることにより、他国等との信頼関係が損なわれるおそれがある情報)に該当し、不開示とする。

 担当部署:環境省水・大気環境局総務課

2. 防衛省

  i. 文書 2016年9月15日
  文書不存在 

3. 沖縄防衛局

  i. 文書 2016年9月8日
  文書不存在
 ii. 文書 2016年9月30日
  文書不存在 

 防衛省と地方協力局である沖縄防衛局は文書不存在であった。吉川秀樹氏によると、ジュゴン保護キャンペーンセンターの要請で「米軍とのやりとりはしている」という発言が防衛省、沖縄防衛局のいずれかであったということであるが(日時などは未確認)、その発言と矛盾している。

 一方、環境省は文書の存在は認めているが、暫定一覧表以外は不開示、つまり米軍、IUCN,ユネスコとのやりとりは開示しない、という結果であった。加えて、非開示文書のリストも公開しないため、文書の存在を裏付けるものは何も提示されていないこととなる。2013年からの3年間、日本政府が何をしてきたかの確認も推測もできない開示結果であった。ちなみに、筆者の実施している開示請求では、外務省では、非開示でも開示請求対象行政文書一覧として開示・非開示の文書名は挙げ(例「第1018会日米合同委員会議事録」)、非開示の決定理由をそれぞれ明記している。 

 結果の意味すること

  • 市民への情報公開という意味で問題
     環境省が自然遺産のことで、米軍や国際機関とどのようなやりとりをしているのかについては県民の関心も高く、それについての情報へのアクセスを閉ざすことは問題である。存在する文書のリストも提示しないということは、情報公開の観点からも問題といえる。
  • ステークホルダーを無視した世界自然遺産登録
     世界自然遺産登録は地元との協議が重要であるが、米軍基地との関係を懸念するステークホルダーを、環境省は軽視、もしくは無視していることを意味する。このような情報開示の現状では説明責任を果たすことはできない。
  • 環境省の姿勢
     このように環境省が情報を出さない、ということは、これからも出さない、ということを意味する。
  • 地元融和策の現れ
     
    環境省のこのような消極的な姿勢は、世界自然登録遺産とやんばるの国立公園化は高江ヘリパッド建設を条件とした北部訓練場の過半の返還の政策推進のための地元融和策にすぎないことの現れではないかと考えざるを得ない。

 今後に向けて

  • IPPは環境省に行政不服審査法に基づき、環境大臣に対して審査請求を行った。 
  • 日米間の文書のやりとりが開示できないと主張するのであれば、その開示以外の方法で情報開示を求めていく必要が関係自治体(沖縄県、国頭村、東村)や市民の側も必要である。   
  • いずれ米軍に当事者として説明責任を果たさせる必要がある。 

[1]沖縄・生物多様性市民ネットワークブログ
http://okinawabd.ti-da.net/c200363.html(2016.3.29)

以下は開示された文書の一部。

TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書)

TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)

環境省開示文書130212TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT(暫定一覧表記載申請書)

環境省開示文書 2013/02/12 TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT(暫定一覧表記載申請書)

環境省開示文書 2014/01/06  TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)

環境省開示文書 2014/01/06 TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)

「米軍基地の騒音・汚染問題~フェンスの外からのアプローチ」

第3分科会(第33回日本環境会議沖縄大会

「米軍基地の騒音・汚染問題~フェンスの外からのアプローチ」
Don’t let the fences stop you 

2016年10月23日(日)09:00-12:00
沖縄国際大学  3号館 303教室

報告1「基地汚染問題の新たなアプローチを探る」13346936_1241243575915817_1850526046387151590_n-1

河村雅美:調査団体 The Informed-Public Project 代表

博士(社会学)。元沖縄・生物多様性市民ネットワーク代表。The Informed-Public Projectの活動は http://ipp.okinawa/を参照。

報告2「基地内の微量有害物質汚染に対する調査研究の試み」img_1053-1

田代豊:名桜大学国際学群教授

三重大学大学院生物資源学研究科修了(博士(学術)) 環境計量士(濃度関係) ’12年より現職。

報告3「沖縄の米軍基地をめぐる音環境」img_1079

渡嘉敷健:琉球大学准教授

1960年沖縄県出身。専門は環境工学、環境騒音、音響工学。沖縄県公害審査会委員、沖縄県建築士審査会会長。辺野古埋め立て承認取り消しを巡る代執行訴訟の証人陳述書提出

 

コメンテーター:國吉信義さん 元米国カリフォルニア州マーチ空軍基地環境保全官) については、旧沖縄BDブログ記事 2015年04月17日2015年05月09日を参照下さい。


分科会3のねらい

沖縄の米軍基地被害の問題に関しては、日米地位協定による壁が大きくたちはだかり、日米関係の政治的状況に左右される部分が大きい。基地関係の事故・汚染発覚時でも、現場や情報へのアクセスが制限される状況が続いている。

この分科会では、その限界の中で、フェンスの外で/から得た情報、科学的データを用いて、どのような問題解決が可能であるか、沖縄での最新の事例をもとに議論する。

沖縄で専門家として継続的に調査・測定を行っている研究者からは、データを用いての辺野古、高江、普天間基地の騒音・低周波の問題、牧港のキャンプ・キンザー等の汚染問題からのアプローチを報告する。調査団体からは、嘉手納基地をめぐる、行政による調査の監視・分析からのアプローチを報告する。

報告者には、市民側に立った調査を誰が担い、いかに継続して実施できるか、および、得たデータをいかに効果的に用いるかという共通の課題がある。それらを実現するシステムやリソースについての問題提起・提言を行い、全体として議論する。

各報告をふまえて、元米国空軍マーチ基地環境保全官で基地汚染問題に従事し、嘉手納基地でも勤務経験のある國吉信義氏が、日米政府を動かすために何をすべきか、コメントする。

当日は、2013年に深刻なダイオキシン汚染が発覚した嘉手納基地跡地沖縄市サッカー場の様子を動画で紹介する。また、音環境の発表ではCH46とMV-22オスプレイの低周波音を体感する時間を設ける。

司会:吉川秀樹
コーディネーター:河村雅美

 
 
※ 本分科会におけるIPPの報告は、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの2016年度助成を受けています。

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河村 雅美

”Don’t let the fences stop you(フェンスがあるからといって、立ちどまってはだめ)”

 これは10月21日から沖縄で開催される第33回日本環境会議沖縄大会の第3分科会「米軍基地の騒音・汚染問題~フェンスの外からのアプローチ」の英語タイトルであり、この分科会のねらいを適確に表しているといえる。以下、この分科会の報告者兼コーディネーターとしての立場から分科会を紹介してみたい。

 沖縄の環境問題には、米軍基地という、フェンスに囲まれて容易にアクセスできない場所に由来する大きな問題がある。この問題は日米地位協定という制度の壁、そして米国に追従する日本政府、日本政府を媒介として米軍に向き合う沖縄県や自治体のポリティクス=「政治」に左右されるところが大きい。

 それでは、私たちは術なく、フェンスの前にたたずみ「地位協定改定を」とくり返すしかないのだろうか。

汚染、騒音を検証

 この第3分科会は、そこで立ちどまらず、フェンスの外から何ができるかを探るために経験を共有し、議論する場とすることを目的としている。沖縄での騒音・汚染の事例をもとに、制度的に制限された状況でありながら、フェンス外で地元の研究者が継続的に調査すること、市民が行政の調査を監視していくことなどによるフェンスで立ちどまらないアプローチの可能性を語り合う場としたいと考えている。

 筆者は調査団体The Informed-Public Project 代表として、深刻なダイオキシン汚染が発覚した嘉手納基地跡地沖縄市サッカー場の事例や、嘉手納基地が汚染源と考えられるPFOS汚染など、行政調査の監視・分析からのアプローチを報告する。また、日英文書を読み、書く実務者として、言語という大きな壁が立ちはだかる日米沖のコミュニケーションの現実的な困難の面にも触れていく。

 また地元で継続的な調査をする2名の研究者から報告がある。田代豊氏(名桜大学国際学群教授)からは、基地内から外へ移動する媒体を用いて、基地内の汚染の状況を推定する手法を用いた普天間基地、キャンプ・キンザーの調査結果が報告される。浦添市とも協働し、返還が決定されているキャンプ・キンザーの汚染を、水質、底質、マングース等の野生生物から推定した成果は返還跡地問題にも大きな示唆を与えるものである。

 騒音被害の面からは渡嘉敷健氏が(琉球大学工学部准教授)沖縄の米軍基地をめぐる音環境について報告する。辺野古アセス、普天間基地の問題で、騒音調査を実施してきた氏からは、オスプレイの低周波による住民の健康被害、心理的側面まで含んだ住民への影響の実態を、正確に把握し示すことのできる調査の実施や、県条例制定の必要性が、説得力をもって提言される。img_1084-2「場」を作り出す

 これらの報告からわかるように、フェンス外で私たちが得たデータ、情報は基地内では得られないものである。基地が汚染源であることを基地内コミュニティに、米軍機が飛ぶことでどんな影響が住民にあるのかを米軍に、というように、むしろ私たちが基地内に伝えなければならないものではないか。このような情報の非対称性を使って、日米政府がこの問題に取り組む状況や「場」を、フェンスの外から、沖縄側が自ら創りだす可能性がある萌芽がある。この「場」を作り出すことの必要性を共有しなければならないのではないか。

 そのような動きは、日米政府、沖縄県の対応に緊張感を持たせることになる。それを積み重ねることは、沖縄の市民からの一つの意思表示となるだろう。公害問題に取り組んできた宇井純氏の言葉を借りれば、私たちの日米政府への「表現努力」を増やしていくということである。

持続的システムを

 しかし、そのフェンス外からの意思表示のためには、市民側に立った調査を誰が担い、いかに継続して実施できるか、行政への監視活動をどう継続していくかという課題がある。現在は特定の研究者たちの努力に依拠している状況であるが、20161004-p23-%e6%b2%96%e7%b8%84%e3%81%8b%e3%82%89%e5%95%8f%e3%81%86-%e7%92%b0%e5%a2%83-%e5%b9%b3%e5%92%8c-%e8%87%aa%e6%b2%bb-%e4%ba%ba%e6%a8%a9-%e4%b8%ad-%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%b3%e3%82%b9持続的なシステムやリソースの問題についてもともに考えたい。

 各報告をふまえて、元米国空軍マーチ基地環境保全官として基地汚染問題に従事してきた國吉信義氏がコメントする。フェンスの中と外を経験する国吉氏の見解が注目される。

 また沖縄市サッカー場のある場面を切り取った「政治」を感じる短い動画上映、CH46とMV-22オスプレイの低周波音の体感の時間も設けている。

 フェンス際ぎりぎりまで私たちがこれからどう動くのか、会議の参加者とともにオープンに話し合う場としたい。

(2016年10月23日日本環境会議 午前9時~正午 The Informed-Public Project代表 第3分科会報告者)

日本環境管理基準(JEGS)2016年版リリースについての見解(速報)

日本環境管理基準(JEGS)2016年版リリースについての見解(速報)

The Informed-Public Project 代表 河村 雅美 
2016年9月16日

日本環境管理基準(Japan Environmental Governing Standards, JEGS)が2016年版に更新されている。

2016-jegs

【案内経緯】

2016年4月21日に日本環境管理基準(Japan Environmental Governing Standards, JEGS)が更新され、在日米軍のHPで発表されていた。
http://www.usfj.mil/Portals/80/Documents/Other/2016%20JEGS.pdf

 日本では、環境省のHPで在日米軍のHPのリンクをつけていたが、2016年版が出されていたことのアナウンス(報道発表)は特にされていなかった。
http://www.env.go.jp/air/info/usfj/index.html

防衛省による和訳は9月17日にHP上で発表された。
http://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/2016_jegs/index.html

【経緯の問題点】

  • 在日米軍から発表されていたのにも関わらず、日本政府が積極的にアナウンスをしていないのは問題である。日本語の仮訳がでなくてもアナウンスは必要である。
  • 漏出事故などでの在日米軍の判断の依拠はJEGSであり、現在どの基準が適用されているかは、私たちは知る必要がある。特に沖縄県民にとっては重要な情報である。それを放置していたのは問題であると考える。
  • このアナウンス方法については、環境省ではルール化はされていないとのことであった(環境省聞き取り 2016.9.16、以下同様)。

【2012年から2014年の変更点】

1.環境省 水・大気環境局総務課によると主な変更点は以下の4点であった。

(1)有害物質・有害廃棄物、化学物質36種を追加した。

英文 Appendix 1 付属資料 p216. Table AP1. T
化審法で反映されていないものが追加された。
*PFOS 追加 p.240 Table AP1.T4.
基準値が書かれていないのは、両国とも規制基準がないため。

2016-jegs-p230

(2)排水基準

これまでは水質汚濁防止法で規制されているものが反映されていたが、自治体の上乗せ部分が反映された。東京都の上乗せ部分が反映された。
英文 p68-70. Table C4.T7-13

(3)アスベスト取扱

詳細な規定を設定した
英文、p.187- Chapter 15 3.6.1~

(4)絶滅危惧種などの追加

英文 Chapter 13 Natural Resources and Endangered Species P168-
絶滅危惧種 29種 (p.168 Table C13.T.1)
特定外来種4種(p.175 Table C13.T3) 

2.変更点については、環境省としては文書の公開等については考えていないということであった。JEGSは米軍のものであるので日本政府として、新旧対照表などのようなものをつくる立場ではないとの見解であった。

3.JEGSは要旨部分(Executive Summary)も更新した部分がわかるような書き方をされていない。今回、環境省は「追加」部分を変更点としてあげているが、過去には騒音項目が削除されたこともあり、さらなる検証の必要がある。

Report 003 米軍基地汚染地の「原状回復」はいくらかかるのか:沖縄市サッカー場汚染関係経費中間報告

 

沖縄市サッカー場を沖縄県道23号沖縄北谷線(通称国体道路)側から望む、高架は沖縄自動車道、奥は嘉手納基地と基地内の小中学校。

 

IPP Report No.3 米軍基地汚染地の「原状回復」はいくらかかるのか
沖縄市サッカー場汚染関係経費中間報告

河村 雅美(Dr. Masami Kawamura / The Informed-Public Project 代表)
2016年7月12日

IPPレポNo-3PDF版

報告の目的

 本報告は、2013年6月にドラム缶が発見され、汚染が発覚した旧嘉手納基地跡地、沖縄市サッカー場の汚染調査や浄化処理関係のこれまでの経費について報告し、その結果から、今後の行政への監視や政策検証に必要な事項について議論する材料を提供することが目的である。

 ドラム缶発見後、サッカー場の汚染は米軍基地由来のものと考えられ、沖縄防衛局、沖縄市、沖縄県による調査が進められた。調査は、サッカー場全域、隣接した駐車場の調査に発展し、現在も進行中である。これまでに108本のドラム缶が発見され、複合汚染の実態が明らかになっている。

 The Informed-Public Project(IPP)では、国会議員、県議会議員、沖縄市議会議員の協力を得て、各機関の経費のデータを入手し、とりまとめた。調査や浄化作業はいまだ継続中であり、より詳細な調査が必要であるため、本レポートは暫定的な中間報告である。

この報告の意義については以下の3点がある。

1. 経費の全体像把握

 沖縄市サッカー場の汚染調査内容や汚染土壌などの処理については沖縄防衛局の発表時に報道がされてきたが、その経費に関しては、複数の行政機関が(沖縄防衛局、沖縄市、沖縄県)対応していることもあり、まとまったデータが出されていなかった。本中間報告では、調査及び処理に関わる業務が継続中ではあるが、これまでの経費の全体像を明らかにすることができた。

2. 汚染発覚からの過程検証

 これまでも返還跡地における土壌汚染や汚染除去費用については国会の場や研究で、一部明らかにされてきたが[1]、調査や浄化作業の各過程でどの程度の費用がかかるか、どのような業者がどのような発注形態で業務を受注し、どこまでの業務を行うのか、といった詳細は明らかにされていなかった。本中間報告により、経費の面から汚染発覚後の過程を把握、検証することができる。そこから、行政は具体的にどのような説明責任が伴うかも明らかになった。

3. 各行政機関の政策評価

 沖縄市サッカー場の汚染発覚後、これまでの跡地調査にはない行政の動きがあった。例えば、沖縄市が調査の透明性を確保するために、国に対抗的調査をした調査体制をとったこと、また、サッカー場汚染発覚の翌年に沖縄県が国の一括交付金の3年事業で、環境政策課に基地環境特別対策室を設置したことなどである。本報告ではこの動きについても検証した。これは、今後、汚染発覚後の各行政機関の政策を検証、評価するための材料の提示となる。
 税金の用いられ方を監視する納税者としての立場から、日米地位協定のあり方を改めて検討する一つの材料として用いられることも、本報告の最終的な目的の一つであることを強調しておきたい。

 構成

報告の目的
ポイント
背景
Ⅰ 沖縄市サッカー場調査等経費について
  1.2015年3月までの支出・経費と2016年度日本政府計上予算
  2. 内訳
    ①沖縄防衛局
    ②沖縄市
    ③沖縄県
Ⅱ 沖縄県環境政策課基地特別対策室について:新規の米軍基地跡地政策として
Ⅲ 考察・提言
Ⅳ むすびに
【参考資料】

ポイント

  • 日米地位協定で米国側の原状回復の義務が問われていないために日本が負担する経費はわずか約1万4000㎡の土地で9億円以上に上る。

  • 沖縄市が実施した沖縄防衛局の対抗調査経費(クロスチェック代)は7100万円以上に上り市の財政負担となっている。あるべき調査体制の姿を示した沖縄市には、国や沖縄県の適切な支援措置が必要である。

  • 日本政府、沖縄県、沖縄市は多額の費用を伴う汚染調査や浄化に関する説明責任を認識し、意思決定過程の透明化に努め、同過程の検証が可能な体制を構築することが急務である。また、費用対効果分析についても第三者的立場から実施する必要がある。

  • 議会、市民の積極的な監視、関与が必要である。

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Report 002 “複合投棄”という跡地の現実:沖縄市サッカー場、北谷上勢頭住宅地、読谷村整備農地

yomitan_genbaIPPレポート No.2 【速報版】 “複合投棄”という跡地の現実
沖縄市サッカー場、北谷上勢頭住宅地、読谷村整備農地

河村 雅美(The Informed-Public Project 代表)
Dr. Masami Kawamura
2016年5月8日

IPPレポNo-2PDF版

2016年4月25日の琉球新報が報じたとおり[1]、読谷村補助飛行場跡地で土壌汚染が発覚し、2年間放置されたまま農地整備が進められていたことが筆者の沖縄県への情報公開請求で明らかになった。

沖縄県事業「平成20年県営畑地帯整備事業(読谷補助飛行場跡地)」で、2013年の不発弾調査中に廃棄物が発見され、沖縄県が土壌を調査した結果、調査地点から基準値を越えたダイオキシンと鉛が検出されていた。

今回、問題になったのはこの土壌汚染に対処する責任がどの機関にあるかが明確でないために、「たらい回し」となり対策が遅れ、結果的に2年間汚染土壌が放置されたことである。土地の所有者である読谷村が処理の責任があるとされ、的確な汚染範囲の確定がされずに、農地整備の事業が進められている。

読谷村は「所有者、米軍への提供者であった国の責任で原状回復してほしい」と、管理責任を問う形で防衛省や沖縄防衛局に、対応を求めている。一方、防衛省や沖縄防衛局は「米軍の行為に起因するものでない」と処理を拒否している。報道によれば、沖縄防衛局は「地元業者が廃材や車両置き場として使用し、焼却していた。土壌汚染除去などを防衛省が実施することは困難だ」と主張しているとのことである[2]。聞き取りによると、読谷村も、地元民がゴミを捨てていることは認めている[3]。当時、調査をした沖縄県も、汚染の状況を知りながら土地の所有者が廃棄物処理の責任者であると、読谷村に対処を預けたままである。

なぜこのような問題となるのか。

まず、これまでに返還された土地の汚染調査が不十分であったことがあげられる。2012年に成立した「沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法」(以下「跡地利用特措法」)以前は、跡地の全面調査は義務化されていない。

また、このような事態に対応する法や制度が不在であることもある。跡地利用特措法は、2012年以前に返還された土地には適用されない。この問題が解決されていないため、2013年の沖縄市サッカー場ドラム缶問題、2015年に公表された北谷町上勢頭第2区の宅地の土壌汚染問題も依拠法はなく、跡地利用特措法に準じる形で沖縄防衛局が対応している。

さらに米軍に起因する汚染であるかどうかで国の責任で処理するかどうかが判断されていることも問題である。沖縄市サッカー場、北谷町上勢頭第2地区は、汚染は米軍に起因するものとして判断され、沖縄防衛局が対応している。読谷村は米軍に起因するものではないと処理を拒否している。

本レポートではこの3つ目の問題に焦点をあてる。米軍基地跡地の汚染の問題は、読谷村のケースで防衛省が主張しているように、米軍起因であるかの「認定」問題として処理することができるのかといえば、そうではなく、より複雑な様相を呈している。

ここでは、沖縄の米軍基地跡地の特徴とは何なのか、関係機関はこれまで、どのように判断し、対処してきたかを示す。これをもとに、沖縄で行われるべく現実的な対応策について考察し、法整備の問題の解決を提言したい。


要約

  • 県内の基地跡地の汚染は米軍や民間(沖縄側)の投棄が混在しているという現実がある。
  • 返還されて時間が経過している土地で発覚した汚染に関する法整備が跡地利用特措法ではされていない。
  • 明らかになってきた沖縄の基地跡地の現実をふまえ、読谷村の問題を「米軍ゴミ認定問題」として扱うことは妥当でない。国はその理由で対応を拒否すべきでない。

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