河村 雅美(The Informed-Public Project 代表)
Dr. Masami Kawamura
2016年11月2日
The Informed-Public Project は、琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する情報、特に隣接する米軍北部訓練場の問題などがどのように米国側に、および登録に関する国際機関に伝えられているか、情報開示請求制度を使って調査した。
背景
2016年9月15日に沖縄本島北部の国頭、東、大宜味3村にまたがる陸域と海域約1万6300ヘクタールが「やんばる国立公園」に指定された。これは世界自然遺産登録の条件である、「法的措置により、価値の保護・保全が十分担保されていること(完全性)」を満たすための日本政府の措置の一つである。
しかし、世界自然遺産登録の過程におけるハードルはこれでクリアしたわけではない。登録への道筋の中で県民の懸念事項として挙げられている問題の一つは、国立公園に隣接している米軍北部訓練場の問題で生じる環境保全の問題という政治的な問題である。
日本政府が米軍基地問題という政治的な問題を避けているのではないかという疑念は、市民団体から幾度か指摘されてきた。
非公式な形では、2012年11月4日に行われた「世界自然遺産シンポジウムin那覇」でのシンポ後におけるIUCN(国際自然保護連合)レスリー・モロイ氏と市民とのやりとりがある。モロイ氏は高江のヘリパッド建設のことは承知していたが、沖縄に存在する米軍基地の全容も北部訓練場の位置や大きさも、その時点まで情報提供されていなかったことを筆者はその場で確認している。
(http://okinawabd.ti-da.net/e4154949.html)
また、沖縄・生物多様性市民ネットワーク元共同代表吉川秀樹のやんばるの国立公園計画についての環境省へのパブリック・コメント(2016.3.27)では、同計画で「基本方針において『北部訓練場の問題をどうするのか』(訓練場内の自然環境のデータはどうなっているのか、訓練からの人々の生活環境への影響はどうなっているのか、国立公園設定に向けて米軍との調整はどうなっているのかなど)を明確に示す」ことを提案している【1】。吉川氏によると、具体的には、日本環境管理基準(JEGS)の運用について、バッファーゾーンの設定を想定しているとのことであった。
情報公開請求
この件について、日本政府が現時点でどのように対応しているかについて調査が必要であると考え、3機関に対して、以下の情報開示請求を行った(2015年8月10日付)。いずれも2013年1月1日からの文書を請求した。
1. 環境省
- 国際自然保護連合(IUCN)とユネスコと環境省間の文書のやりとり
- 琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する会議の文書
- 環境省と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て
2. 防衛省
- 防衛省と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て
3. 沖縄防衛局
- 沖縄防衛局と米軍間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て
- (上記の追加として)沖縄防衛局と環境省那覇自然環境事務所間で交わした琉球・奄美の世界自然遺産登録に関する文書全て(2016年8月31日付)
開示結果
結果の概要は以下のとおりであった。
1. 環境省
i. 文書 2016年9月9日付
開示された文書
(ア)TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書)
(イ)TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)
上記以外の環境省と国際自然保護連合及びユネスコ間で交わした文書については、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は交渉上不利益を被るおそれがあり、法第5条第3号に該当するため、不開示。
ii. 文書1(2))2016年9月9日付
開示(1)世界遺産条約関係省庁連絡会議(平成25年1月)
iii. 文書1(3))2016年9月9日付
文書不開示
理由:開示請求のあった行政文書に該当する資料は、非公開を前提とし、作成されたものであること。
従って、法律第5条第3号に掲げる不開示情報(公にすることにより、他国等との信頼関係が損なわれるおそれがある情報)に該当し、不開示とする。
担当部署:環境省水・大気環境局総務課
2. 防衛省
i. 文書 2016年9月15日
文書不存在
3. 沖縄防衛局
i. 文書 2016年9月8日
文書不存在
ii. 文書 2016年9月30日
文書不存在
防衛省と地方協力局である沖縄防衛局は文書不存在であった。吉川秀樹氏によると、ジュゴン保護キャンペーンセンターの要請で「米軍とのやりとりはしている」という発言が防衛省、沖縄防衛局のいずれかであったということであるが(日時などは未確認)、その発言と矛盾している。
一方、環境省は文書の存在は認めているが、暫定一覧表以外は不開示、つまり米軍、IUCN,ユネスコとのやりとりは開示しない、という結果であった。加えて、非開示文書のリストも公開しないため、文書の存在を裏付けるものは何も提示されていないこととなる。2013年からの3年間、日本政府が何をしてきたかの確認も推測もできない開示結果であった。ちなみに、筆者の実施している開示請求では、外務省では、非開示でも開示請求対象行政文書一覧として開示・非開示の文書名は挙げ(例「第1018会日米合同委員会議事録」)、非開示の決定理由をそれぞれ明記している。
結果の意味すること
- 市民への情報公開という意味で問題
環境省が自然遺産のことで、米軍や国際機関とどのようなやりとりをしているのかについては県民の関心も高く、それについての情報へのアクセスを閉ざすことは問題である。存在する文書のリストも提示しないということは、情報公開の観点からも問題といえる。
- ステークホルダーを無視した世界自然遺産登録
世界自然遺産登録は地元との協議が重要であるが、米軍基地との関係を懸念するステークホルダーを、環境省は軽視、もしくは無視していることを意味する。このような情報開示の現状では説明責任を果たすことはできない。
- 環境省の姿勢
このように環境省が情報を出さない、ということは、これからも出さない、ということを意味する。
- 地元融和策の現れ
環境省のこのような消極的な姿勢は、世界自然登録遺産とやんばるの国立公園化は高江ヘリパッド建設を条件とした北部訓練場の過半の返還の政策推進のための地元融和策にすぎないことの現れではないかと考えざるを得ない。
今後に向けて
- IPPは環境省に行政不服審査法に基づき、環境大臣に対して審査請求を行った。
- 日米間の文書のやりとりが開示できないと主張するのであれば、その開示以外の方法で情報開示を求めていく必要が関係自治体(沖縄県、国頭村、東村)や市民の側も必要である。
- いずれ米軍に当事者として説明責任を果たさせる必要がある。
以下は開示された文書の一部。
TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書)
TENTATIVE LIST SUBMISSION FORMAT (暫定一覧表記載申請書再提出版)