IPPレポート No.6 北部訓練場過半の返還実施案調査で非公開資料入手

防衛省提出資料 北部訓練場返還実施計画案(2016年10月18日)について

河村 雅美(The Informed-Public Project 代表)
Dr. Masami Kawamura

 The Informed-Public Projectは、北部訓練場過半の返還の実施計画案についての調査を聞き取りと文書で行った。
調査により、返還予定地の所有の8割が林野庁であること、実施計画案は沖縄防衛局が沖縄県、東村、国頭村に送付したもの以外の文書が存在していることが明らかになり、重要な事実があるためにリリースした。
このリリースは、発表後、以下の記事になった
沖縄タイムス「米軍基地の汚染除去、国が範囲限定へ 北部訓練場返還で」(2016.11.16) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71310
沖縄タイムス「社説[北部訓練場汚染調査]枯れ葉剤を対象とせよ」(2016.11.17) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71482
以下、リリース時のIPP見解である(2016年 11月14日 )。

1.  地権者が林野庁であることによる懸念

北部訓練場過半の返還は跡地利用特措法を根拠法として実施され、「返還実施計画」の手続きが同法の8条に基いて行われる。
実施計画案に県知事は1ヶ月後、東村長、国頭村長は、2ヶ月後に意見を提出する。 県知事意見は、沖縄県の庁内で関係部署からの意見を集約して提出することになっているとのことであった(2016.10 沖縄県企画調整課)
市町村は返還予定地の地権者からの意見を集約し、提出する。東村の地権者は林野庁、国頭村の地権者は50人程度であるとのことであった(2016.11.2 東村、国頭村)。国頭村は聞き取りの時点では地権者の意見を聞く方法も模索中であり、意見の決定過程も町議決定となるか、上意決済になるかも未定ということであった。

農林水産省林野庁への聞き取りによると、東村、国頭村の返還予定地の大半の国有林の所有者は林野庁であるとのことであった(2016.11.10林野庁業務課藤平)。所有者の林野庁と沖縄防衛局の関係については、林野庁は「国」の方に属するため、意見書を東村に出すことはないとの見解を示した。
また、返還後の利用計画は返還後の議論であるとしながらも、林業地として使うよりは、貴重な自然としての森林として利用することを考えているとのことであった。報道によれば東村と国頭村が部分返還の対象地をやんばる国立公園に早期に編入することを求めているということである(琉球新報、2016年10月18日)。

ここで懸念されることは、米軍基地跡地を自然保護区にして汚染調査がおざなりになることである。以下の理由による。

  1. 国から国の返還であること
  2. 他国で相似の事例があり、問題として指摘されていること。

例えばプエルト・リコのビエケスの海軍の演習場が18000エーカーの大半が内務省(the U.S. Department Interior)に移管され、野生生物保護区に指定された例がある。年間180日以上実弾訓練を実施していた地域であるにも関わらず、保護区として利用することにより、浄化の要件が表層的なものとなる、政治的な跡地利用の例である(追記:この件は別途問題化する)。
おざなりになることで、安全・安心の確保ができないことは言うまでもない。米軍の北部訓練場の運用による汚染や環境破壊は当然予測されることである。米軍の責任を今後問う事例としても詳細なデータは必要である。それを把握することは、日米地位協定で免除されている米軍の「原状回復」の義務を今後果たさせる道筋をつけるためにも重要である。

2. 「支障除去措置」の問題

メディアには公表していない沖縄防衛局の関係自治体への説明文書「北部訓練場の過半の返還について」を国会議員赤嶺政賢事務所から入手した。
実施計画案にはない情報が入っており、以下のような計画が明らかになっている。

沖縄防衛局説明文書「北部訓練場の過半の返還について」

支障除去措置の進め方
北部訓練場の返還予定地は「やんばる国立公園(仮称)」に隣接し、貴重な動植物及び天然記念物などが生息 しているため、環境に十分配慮した上で支障除去措置を実施する必要があることから、土壌汚染調査等を実施する際は、関係機関等と相談しながら進める必要がある。

支障除去措置の主な範囲

 支障除去措置の内容については、資料等調査及び概況調査の結果により決定するものであるが、現時点にお いて、支障除去措置を実施する必要があると考える主な範囲は以下のとおり。
①米軍車両の通行があった道路
②既存のヘリパッド及びその周辺
③土壌汚染等の蓋然性が高いと考えられる過去にヘリが墜落した場所

IPPが入手した 北部訓練場の過半の返還についてH28・10月 沖縄防衛局

まず範囲が非常に限定的に考えられている、使用していた道路、ヘリパッドと事故の墜落場所ではこれまでの例からみても、十分ではない。資料等調査や概況調査の実施前に上記のような範囲を必要範囲とする根拠も不明である。
沖縄防衛局の資料等調査も精度に疑念がある。西普天間の返還跡地でも資料等調査での予測が外れ、ドラム缶や鉛が検出された地域が「土壌汚染が少ないと認められる土地」から「土壌汚染のおそれが比較的多い区画」に変更された前例もある(「旧嘉手納飛行場(26)土壌等確認調査(その2)西普天間住宅地区内報告書2014年12月、沖縄防衛局)。

米軍から提供される資料が不十分であるに加え、返還される土地は米軍の投棄物が発見される例が沖縄の返還跡地の特徴であるため、汚染の事前の性格づけも困難な状態である。
範囲を限定した調査をすることは問題であるし、それゆえに40,100,000平方メートルの調査を含む支障除去を1-1年6ヶ月で実施するのは現実的でない。後ろを決めて短期間で調査や除去を実施することは、安全・安心の面で不安が持たれるものである。

西普天間の51haの2-3年間という予定される支障除去期間よりも短く、貴重な自然環境の残る広大な訓練場の調査の知見や経験がこれまでないにも関わらず、このような短期間で終わらせることがなぜできるのか、説明がないのも併せて問題である。
世界自然遺産にするための国立公園化ということを考えると、杜撰な調査処理では、国際基準のハードルを越えられないことになることも2村は考える必要がある。
以上。 IPPが入手した 北部訓練場返還実施計画素案(2016年10月18日)PDFデータ20161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案01
20161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案0220161018 防衛省 北部訓練場返還実施計画素案03

※このレポートは、発表後、以下の記事になった
沖縄タイムス「米軍基地の汚染除去、国が範囲限定へ 北部訓練場返還で」(2016.11.16) http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71310
「社説[北部訓練場汚染調査]枯れ葉剤を対象とせよ」(2016.11.17)  http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/71482

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