疫学統計・解析委員会に関する沖縄県知事対応への意見書

意見書「沖縄県疫学統計・解析委員会資料:解説および資料」(令和3年7月12~25日)の検証は、県内紙で報道され、知事の記者会見でも追及がありました。

この記者会見の報道を受け、以下の意見書を2021年8月23日に沖縄県知事に送付しました。
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県内紙で以下のとおり報道されました。
琉球新報「コロナ疫学委人事『根拠が不明』『透明性を』医師や調査団体が沖縄県に要請」(2021年9月2日) 
沖縄タイムス「県の政策『透明性を』徳田医師ら知事に要請」(2021年9月6日)

 

                                            2021年8月23日

 

沖縄県知事 玉城 康裕殿   

群星沖縄臨床研修センター長 徳田 安春
相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長 渋谷 健司
The Informed-Public Project 代表 河村 雅美

「沖縄県疫学統計・解析委員会資料」検証の意見書と県知事対応について

日々の新型コロナウイルス感染症対策の取組みについて、感謝申し上げます。

私たちはこの度、「沖縄県疫学統計・解析委員会資料」を検証し、意見書「『沖縄県疫学統計・解析委員会資料:解説および資料』(令和3年7月12-25日)の検証」(以下、「意見書」)として発表しました[1]

意見書では、沖縄県疫学・解析委員会(以下、「委員会」)の資料は疫学・統計学の原則に基づくデータ分析と結果の解釈に沿っていないことを示しました。また、沖縄県には、この資料の科学的妥当性についての見解を示すこと、疫学統計・解析の方法や資料の作成者の専門性を開示すること、解析結果の適切な公表及び科学的妥当性と透明性を担保するための体制を整えることを要請しています。

それは沖縄県の新型コロナウイルス政策が、科学に基づき、市民の信頼のもとに立案・遂行されることを望んでいるからです。

意見書の意見は一部採用され、委員会資料に改善がみられたことは評価したいと思います。

2021年8月12日の記者会見で、玉城知事はこの意見書についての見解と対応を示しました[2]

それについて、私たちの意見を述べます。

1)「委員会への信頼が揺るがない」という意見について:科学的妥当性の問題

記者会見の中では、知事は県内紙で委員会への信頼が揺るがないという見解を示しました。

知事の「しっかりとしたエビデンス(根拠)に基づく解析であるとの信頼性が揺らぐことはない」(沖縄タイムス)「委員会のデータは県の政策決定で羅針盤として重用してきた。しっかりとしたエビデンスとその解析がなされており、信頼性が揺らぐことはない」(琉球新報)という見解についてですが、今回の資料では、「しっかりとしたエビデンス(根拠)に基づく解析」という表現は科学的ではないと思います。科学的には「疫学的に妥当な疾患定義とデータ収集の方法に基づいて、統計学的に妥当な推論と分析を行った上で得られるエビデンス(根拠)に基づく政策を実行する」と表現すべきだと思います。私たちの意見書は「今回の貴委員会における、疾患定義とデータ収集方法、推論方法、分析方法、の方法論が科学的に妥当ではない」と指摘しています。また、「データの組み方や出し方はそれぞれの研究者によって意見がある」のではなく、科学的に妥当かどうかは、それぞれの研究者による問題ではないことをご理解いただきたいと思います。

2)委員会を知事直属に位置づけ、県の医療アドバイザーを設置することについて:政策過程の透明性の問題

この知事の対応は根拠が不明です。委員会を「知事直属」に位置づけることが、指摘している問題をどう解決することになるのかがわかりません。そもそも中部病院のクラスター発表に関する問題から、高山医師が専門家会議の委員を辞任する際に、その後は疫学統計・解析委員会に所属し、委員会が専門家会議の下部組織になったことが発表されましたが、それも理由が不明です。不明なまま、今回また位置づけを変え、さらにこれまでになかった県の「医療アドバイザー」を設置するという唐突な対応が加わっています。設置理由、所掌業務、政策決定過程の位置づけも明らかにされないまま、高山医師の任命を考えていることも、政策が特定の個人に紐づけられているような疑念を生じさせます。過去に知事の政策決定が、不十分な情報で非公式な場で行われたことが疑われることもThe Informed-Public Project(IPP)のレポート[3]でも指摘されており、今回の対応も、公衆衛生政策の中で重要であり、県民が求めている政策決定過程の透明化と逆行する動きといえます。県行政の信頼のために、一連の改組について、説明が必要です。

よって、以下を要請します。

1.意見書の趣旨を関係部局にも共有し、委員会の問題改善に対処すること。
2. 委員会の詳細についての情報開示を速やかに行うこと。
昨年度の「沖縄県疫学統計・解析チーム」の沖縄県における位置づけ、データ管理ルールの有無、今年度の「疫学統計・解析委員会」の設置要綱、所掌業務、個人情報取扱規程、委員名、委員と資料作成者の専門性の開示、厚生労働省アドバイザリーボード資料と委員会資料との関係等)
3.新型コロナウイルス感染症政策決定過程に関係する改組・人事については、透明性を担保し、その必然性に関し十分な説明を知事が行うこと。
専門家会議を含め、新型コロナウイルス感染症政策に係る専門知識のインプットについての体制整備、会議や資料の市民への即時的な公開や議事録作成など、政策決定過程の透明化と専門家の説明責任を果たす制度を策定すること。

私たちは、沖縄県の新型コロナウイルス政策のために、今後も協力を惜しみません。知事のリーダーシップのもと、行政内外から知見を募り、蓄積された経験を共有しながら対処していく体制をともに構築できればと思います。

  以上。

【提出文書】

1) 意見書「沖縄県疫学統計・解析委員会資料:解説および資料」(令和3年7月12〜25日)の検証」(2021年8月10日)
2) The Informed-Public Project 調査分析レポート「沖縄県新型コロナウイルス感染症政策決定過程の問題――透明性はなぜ必要か」(2021年7月19日) 

【要請に関する連絡先】  
群星沖縄臨床研修センター長 徳田 安春: yasuharu.tokuda@gmail.com 

[1] The Informed-Public Project記事「『沖縄県疫学統計・解析委員会資料』を専門家が検証」(https://ipp.okinawa/2021/08/10/ekigakutokei-ikensho/  2021年8月10日)
沖縄タイムス「疫学統計委の分析『不備が多数』と意見書 専門家ら、県に透明性を求める」(2021年8月11日 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/802216 
2021年8月22日アクセス)、
琉球新報「沖縄県の疫学・統計学的推論は『不適切』 医師や調査団体が意見書」(2021年8月12日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1373427.html   琉球新報「『ゲノム解析なく感染源確定』県の疫学的推論、医師や調査団体が疑問視」(2021年8月12日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1373438.html
琉球新報「『週報で高度な分析は困難』調査団体の意見書に高山医師『多様な検討すべき』」(2021年8月12日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1373431.html )(いずれも2021年8月22日アクセス)。

[2] 沖縄タイムス「知事『信頼揺るがぬ』県の疫学統計委への不備指摘に」(2021年8月13日 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/803307 2021年8月22日アクセス)
琉球新報「【知事一問一答】コロナ解析への疑義 委員会への信頼揺らぐことない」(2021年8月13日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1374051.html 2021年8月22日アクセス)

[3] IPPレポート「沖縄県新型コロナウイルス感染症政策決定過程の問題–透明性はなぜ必要か」
(2021年7月19日  https://ipp.okinawa/2021/07/19/covid-19-report-okinawa/)

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