データからみる沖縄のPFAS汚染

2016年1月、PFOS、PFOAという、当時は聞き慣れない化学物質によって水源が汚染されていることを沖縄県企業局が発表してから5年が経ちました。
5年の間に蓄積されたデータをビジュアル資料にまとめてみました。状況の整理などの助けになればと思います。

環境中のデータ

(1)河川・湧水等のPFAS 

2016年1月、沖縄県企業局は北谷浄水場の水源である河川等から高濃度のPFOS、PFOAが検出されていること、そして嘉手納基地が汚染源と推測されることを発表しました。その後、県環境部の調査で普天間基地周辺湧水で高濃度のPFASが検出され、今年度の調査では、キャンプ・ハンセン、キャンプ・フォスターの周辺のデータも加わりました。環境省も全国調査や基地外で実施している在日米軍施設・区域環境調査でデータをとりはじめています。また、調査報道によって基地内のデータも明らかになっています。それらを基にして現在の沖縄のPFAS汚染の状況をまとめました。 

(※沖縄県データの「キャンプ・マクトリアス」周辺のデータについては調査地名と経緯について不明な点があるためにこの図にいれていない)

現在 データで示されている沖縄のPFAS汚染は、米軍基地が原因であるものが大半をしめています。これは、基地内での訓練や事故等の漏出で泡消火剤が土壌や地下水に長期間蓄積し、周囲の河川や湧水に滲出することに起因していると考えられます。

産業廃棄物処分場も汚染源となっています。ただし、図中の沖縄市の産業廃棄物処分場は米軍基地ではありませんが、普天間基地の泡消火剤の処分がされていた場所でもあったことが調査報道で明らかになっており、基地にも関係しています。この小さな島で、廃棄物処分という基地の「インフラ」部分いを基地外でも支えなければならず、そこで発生する汚染にもみまわわれている沖縄の状況がわかると思います。

(2)生物中のPFAS 

生物中のPFASのデータも明らかになっています。嘉手納基地からの泡消火剤によるPFAS汚染が生じている北谷浄水場の水源の比謝川流域では、生息する魚類からPFASが検出されています。これは、京都大学の田中周平准教授・国立研究開発法人土木研究所の鈴木裕識研究員の研究成果で、県内では琉球新報が報道しています。



「沖縄県内の河川魚類中からの PFOS 前駆体とみられるポリフルオロアルキル化合物の定性分析」(2017年)(プレゼンテーション版要旨版)を基にIPPで作成。

PFOSの値は、環境省が15年に国内17都道府県で調査した魚類の含有量中央値の約710倍ということで、非常に高い値であることがわかります。
この研究では、消火剤の成分として含まれていた種々の前駆体から PFOS が生成した可能性が明らかになり、泡消火剤が汚染の起源であることも示唆されています。

PFASが生物や生態系に影響を及ぼしていることは、世界でもデータが蓄積しており、米国でも魚類のデータが確認されています。2018年の調査では、工場等が汚染源となっているノースカロライナ州のケープ・フィアー川のストライプドバスの血中からは11種類のPFASが検出されていることが明らかになっています。
魚類の摂取についての警告(advisory)を出している州(ミシガン州ウィスコンシン州)もあります。

沖縄で検出されたPFASの種類

PFAS汚染問題の解決が困難である理由の1つはPFASの自体の蓄積性(Forever Chemicalと呼ばれる所以)の他に、代替物が製造され続けていることです。
沖縄でモニタリングされているのは、PFOS、PFOA、PFHxSの3種のみですが、実際には9000種以上存在していることが、米国の第一線の研究者が指摘しています。そして、規制されたPFASの代替物が同様の有害性を持つことが明らかになってきているために、この問題に関わってきた科学者や環境団体、1つ1つの物質ではなく、PFASを1つのクラス/グループとして規制せよ、と主張しているのです。

では、沖縄ではどれだけのPFASが確認されているのか、既存の調査で明らかになっているものを示してみます。

(1)沖縄県衛生環境研究所の調査 

以前もIPPの記事でも紹介しましたが、2017年に発表・公開されている沖縄県衛生環境研究所(以下、県衛生研)の沖縄県本島河川の有機フッ素化合物の調査があります(採取は2014年で2016年に分析)。
調査報告はこちら:塩川敦司・玉城不二美「沖縄島の河川及び海域における有機フッ素化合物の環境汚染調査」『沖縄県衛生環境研究所所報』第51号(2017) 

この調査では、10種類のPFAS(PFBA, PFPeA. PFHxA, PFHpA, PFOA, PFNA, PFBS, PFHxS, PFHpS, PFOS) を全県的に調査しています。
沖縄全体のPFAS汚染状況は以下のとおりです。

県内で問題になっている中部河川はPFASが高い値で検出されていることがわかります。
北谷浄水場の水源、嘉手納基地を起点として基地内を流れる大工廻川、廃棄物処理場の影響のある天願川を抜き出してみたのが下記の図です。

(2)普天間基地泡消火剤漏出事故後(琉球新報)

 2020年4月の普天間基地からの泡消火剤の大量漏出の事件時に、琉球新報が周囲の河川から採水して京都大学に分析依頼したところ、やはりPFOS、PFOA以外のPFASが(PFHxA、PFOA、PFHpA, PFOS, PFNA. PFHxS, PFDA,PFUnDA, PFDoDA, PFDS, PFNS, PFHpS, 6:2FTS)検出されています。PFOSの代替物もみられます。分析者の京大原田准教授によるとPFOSが製造される過程ででてくるPFASがあるとのことです(詳細は小泉昭夫・原田浩二「米軍基地周辺の有機フッ素化合物による環境汚染」『環境と公害』(2020年10月号)を参照)

疫学調査:体内への蓄積

  PFASが入り込んでいた水は長期間、沖縄の住民にどのような影響を与えているのでしょうか。それが明らかになったのが2019年5月にNHKクローズアップ現代+で報道された京都大学の調査です。
   調査をみる前に、現在の嘉手納基地からの汚染に影響のある地域について整理しておきます。嘉手納基地周辺の水源から取水している北谷浄水場からは7市町村、45万人に給水されています(南城市が示されているのは調査の比較対照として調査地となった市だからです)。

  2020年度の沖縄県企業局のモニタリングでは、北谷浄水場の浄水は活性炭フィルターを用いた措置を行い、PFOS+PFOAの合計値は8-32ng/L(平均17ng/L)、PFHxSは4-20ng/L(平均9ng/L)で推移しています。措置前には2015年には、PFOS+PFOAが最大値120ng/Lを記録したこともありました。
 厚生労働省は2020年にPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目とし、目標値を合計50ng/Lとしています。一方、米国の環境団体は全PFASの合計値を1ng/L(ppt)とすることを提案しており、厚労省の値が安心できるものではないと考えられます。

  人体への影響について、2019年5月に報道された京都大学の調査でその一端が明らかになりました(下図参照)。北谷浄水場から給水されている宜野湾市の住民の3種類のPFASの血中濃度が、北谷浄水場以外から給水されている南城市よりも高い値を示しています(京大調査による両市の水道水のPFASの値は、宜野湾市はPFOS 14,1, PFOA 4.1. PFHxS 13.2 ng/L,  南城市はPFOS, 1.4, PFOA 0.7, PFHxS 0.7ng/L。)。注目されるのは、全国平均より明らかに高い値を示していることです。
 さらに京大が1981年に採取し貯蔵していた沖縄市の男性5名の血液を分析したところ、PFOSの代替物質であるPFHxSが既に血中に入り込んでいたこともわかりました(沖縄県議会での参考人資料はこちら)。

 この調査の評価に関しては、2016年の米国EPAの基準を基に行っており、これに関しては今後再評価が必要かとも思われます。東京府中市や国分寺市の調査を実施したNPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の提言書ではドイツの基準値を参照しています。

 米軍がPFASの含まれている泡消火剤を使用し始めたのは1970年代と思われます。早期から環境・健康面への影響は指摘されていましたが、化学産業界との癒着等でその情報は隠蔽されてきました。基地の影響を受ける水源は、飲料水に使用するためには安全性が保証できません。
 現在の活性炭フィルターの措置も他のPFASへの措置となっているかの疑念もあり、対処としては万全ではありません。北谷浄水場の嘉手納基地周りの水源の取水停止せよという市民の訴えは妥当な訴えだと考えます。既に環境だけでなく、人体への影響が明らかになっているのですから。

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