沖縄県による「新たな沖縄振興のための制度提言(中間報告)」への意見〜基地環境の側面から

「新たな沖縄振興のための制度提言(中間報告)」への意見

「新たな沖縄振興のための制度提言(中間報告)」への意見募集(パブリックコメント)がありましたので、12月26日、沖縄県に意見を提出しました。
 2021年度で現行の沖縄振興特別措置法(沖振法)が期限を迎えます。また、沖振法と比較すると着目度が低いのですが、2012年に改正された「沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法利用特措法」(跡地利用推進法)も時限立法のため期限を同時期に迎えます。IPPはメディアでも指摘を始めています*。今回のパブリックコメントは、これらの制度の延長、改正を国に求める県の提言の中間報告に対しての意見募集でした。
 IPPは、活動 に関係する「駐留軍活動への環境管理対策の強化」と「跡地利用推進法の延長及び改正」の部分に意見を書きました。
 県の方と別件のやりとりで教えていただいて〆切間際に書いたので(〆切9分前くらいに提出(汗))、体系だった意見は書けず、注などもつけられなかったものですが、今後の整理のためのたたき台として共有します(ウェブ版は誤字など修正し、関連リンクをつけました)。

*RBCニュース「93年の返還地からも…北部訓練場の廃棄物」(2020年10月22日。写真はその画像から)

Ⅰ「駐留軍活動への環境管理対策の強化」(p21)

1.前提条件の拡大

 提案された規定(1)では「米軍活動に起因して環境に影響を及ぼす可能性がある事故の発生」が前提になっている。

 しかし、この規定の条件は実情にあっていない。2016年から沖縄県内で問題になっている有機フッ素化合物(PFAS)の問題は突発的な事故が問題になっているわけではない。基地内で蓄積された土壌汚染、地下水汚染が滲出して県民の生活空間に被害が生じているのが現状である。この規定条件を、現状を鑑みること、および米国本土の情報を積極的に入手することにより今後起こりうる事態の可能性を想定し、より広範囲に規定する必要がある。

2.対応費の財政支援・補償

(2)も環境調査の実施経費だけでなく、沖縄県企業局がPFAS除去の対応として設置した活性炭フィルター費(当初1億7000万円+年間3億円)などのように汚染の除去や対応に関する費用を補償として要求することも必要である(また、水の配給のような現物支給も可能性として挙げることも必要ではないか)。

 2020年度に厚生労働省環境省がPFOS・PFOAの目標値を設定したが、対処に関しては沖縄県や自治体の負担のままである。現に、普天間基地由来と考えられる宜野湾市で発生しているPFAS汚染では、市が安全を確保するためにわかたけ児童公園の土壌を撤去したが、市の責任や費用で実施されている。高濃度のPFASが検出されている大山湿地の農業も、安心して農業ができるように、米国での国防権限法案等を参考に、補償や安全な水の確保といった対処について、国に求めることを要求項目に含ませることを提案する。

 また、調査費には、沖縄市サッカー場のドラム缶の調査で沖縄市が実施したクロスチェックのような透明性を保持する監視的調査や専門家雇用の経費等に使えるような、沖縄県の自主性で運用できる費用も含ませることが必要と考える。

3.環境問題から健康・公衆衛生問題への拡張

 沖縄県はPFASに関しての環境面でのデータは蓄積してきた一方、公衆衛生問題での展開はしていない。制度の提言の必要性の部分で、「県民の健康被害の防止を図る観点から」ということを掲げているならば、疫学調査などの実施も急務であると考える。2019年の京都大学の調査で明らかになった、有害物質が県民の体内で蓄積されている事実をふまえ、バイオモニタリング等の事業を沖縄県や自治体が実施できることを可能とする財政支援を要求するべきであると考える。

Ⅱ 跡地利用推進法の延長及び改正(pp193-194)

1.2012年改正の特措法の不備の是正(支障除去の部分)

1)手続き部分

 2012年の特措法では、跡地全体の「支障除去」を実施することにはなったことは評価できる。しかし、この法の実際の運用では、調査や対応に関する透明性や説明責任が担保できていないので、その不備を改善することが延長や改正の際に必要である。

 大前提として、返還合意されている土地とはいえ、土地の返還過程が日米政府の発表を起点に行われ、返還という戦後責任・処理の問題であるにも関わらず、スケジュール等の対応で沖縄側が振り回される制度になっていることに、沖縄県は異議を唱えるべきであると考える。

 2016年の北部訓練場過半の返還では、10月に返還が発表され、12月に返還というスケジュールであり、その短期間の中で返還実施計画の発表、首長への意見聴取などが行われる拙速な返還前の政策が遂行された。また、改正法では跡地全体を対象としたにもかかわらず、森林という土地の特殊性はあるにせよ、世界自然遺産登録推薦にあわせるという政治的スケジュールの理由で、日本政府は限定的な調査実施した。結局、期間限定で実施された除去措置の積み残しに関しては、西普天間住宅地区や、北部訓練場過半の返還地では引き渡し前に「協定書」を締結するなど、政治的スケジュールありきの支障除去は問題が多いので整理して改正を要求すべきである。

 また、支障除去に関しては、拠点返還地の場合は協議会が設置されるが、それ以外の部分は公の組織が制度的に設置されないことも透明性の保持としては問題であるので、市民の参加も含めた組織の設置など、その面からの改正も必要である。

2)汚染物質項目

 汚染物質の項目立てなどについても国内法では全くカバーできないので、米国のスーパーファンド法や、国防権限法にひもづけて適用することを要求することも提案する(随時、沖縄県のガイドラインも改定することが必要と思われる)。

2.法施行前の返還地問題

 法施行前に引き渡された土地から問題が発生した場合が近年多発しているが(沖縄市サッカー場、北谷町上勢頭、読谷村飛行場跡地)、県の案どおり法の対象とすることを強く要望する。また、これまでの事例で米軍由来であるかないかの証明で市町村の負担が重くなっていることも問題である。これも戦後処理・責任の問題であるので、米軍基地の存在自体が由来である時には(黙認耕作地なども含め)沖縄側の負担なく、速やかに国が対応することを要求するべきであると考える。

 既に返還された土地でも、新たに問題となる有害物質問題については遡って調査できるような仕組みも必要と考える(西普天間のPFAS問題等)

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世界自然遺産の問題で共に活動しているOkinawa Environmental Justice Projectの吉川秀樹さんの意見書も共有します。
制度提言の前提の枠組み自体への問い直し等、根本的な議論の必要性を感じさせられる提言です。こちらも参考にしてください。

吉川秀樹 意見書 https://ipp.okinawa/wp-content/uploads/2020/12/e187c12fa8ac5286865629702dd256f2-1.pdf

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