沖縄県の専門家会議は2波の厚労省分析をどう解釈したのか:「議事概要」の功罪

IPPは、沖縄県への情報開示請求で「沖縄県におけるCOVID-19集団発生事例に対する対応の中間報告:2020年8月24日確定分までの解析」(沖縄県衛生環境研究所/厚労省クラスター対策班第2次沖縄派遣チーム)の文書において、「個人の情報」を理由に不開示(黒塗り)とされた部分が、2波の感染拡大の端緒を示すものであったことを、情報開示請求等の調査により明らかにした。2波の感染拡大の端緒は「観光業」「接待を伴う飲食店」が示されていた。

この続報について以下、報告する。


詳しい背景はこちら:IPP記事 「沖縄県が新型コロナ感染拡大の端緒を黒塗りに」(2021年5月13日)

県内紙2紙報道。
琉球新報「【独自】沖縄県「個人情報」ないのに資料黒塗り コロナ拡大の相関図」(有料記事)2021年4月27日(1面)
沖縄タイムス「個人情報が含まれないのに全て黒塗り 沖縄県、コロナ感染拡大の相関図を公開せず」 2021年4月28日(社会面)

疫学調査文書は専門家会議の配布資料に

IPPの情報開示請求で入手した文書と、独自のルートで入手した文書により、上記文書が第11回専門家会議(2020年8月27日)の資料だったことが明らかになった。情報開示についての問題は別記事で報告する。

・琉球新報「沖縄県のコロナ資料、情報公開の対応に差 黒塗り部分、専門家会議では公表」(2021年5月26   日) 
・沖縄タイムス「同じ資料なのに不開示が拡大 沖縄県のコロナ専門家会議 議論追えず IPPが調査」 
   (2021年5月27日)



つまり、以下の専門家会議のメンバーは厚労省/感染研の分析を知り得ていたということである。

      第11回専門家会議の委員・参加者

専門家会議の議論はみえず:「議事概要」記述とデータは矛盾

では、このような重要なデータや解析を知り、専門家会議はどう議論し、動いたのか、あるいは動かなかったのか、疑問が生じるところである。
専門家会議での議論の手がかりは、議事録が存在しないため、唯一公開されている当該会議の「議事概要」のみである。
議事概要の該当部分と思われる箇所は以下のとおりである。

 

 

専門家会議が厚労省/クラスター班作成のデータを参照し、どのような分析、解釈、議論を会議でしたのか、この議事概要だけではわからない。議事次第では、複数の資料が提示されていることがわかるため、どの資料をもとに、どの発言をしているのかもわからないのである。

それらしき記述は「3 観光業の従事者の感染、観光業からの感染はほとんどないのではないか、どのような対策を取れば良いか」のみである。この記述は、データが示す結果とはむしろ逆であることからも、データの分析、解釈が専門家会議で正確にされているのかに疑問が生じる。
群星沖縄臨床研修センター長徳田安春医師は、この資料をみて、詳細な分析をしているが(<コロナ資料黒塗り>「経済優先」が逆効果生むパラドクス 徳田安春氏(群星沖縄臨床研修センター長)【識者談話】2021年4月27日琉球新報、およびIPP記事での追加解説を参照)、このような分析や検証は、ここには記されていない。

文書の該当箇所の黒塗りもあったことから、議事概要の意図的な要約も疑われる状況でもある。議事概要は、どこをとってどこを省くかという恣意性が働くので、議論を記録する形態として適当なものでないこともわかる。

データは、政策を立案するための基礎となるものであるが、これがどのように知事や経済団体に報告されたかも記録で確認できない。専門家会議には知事は出席していないため、この報告を誰が行うのか、専門家の座長が担うのか、行政側が担うのかも明確でない。沖縄県紙2紙の琉球大学大学院藤田次郎座長へのインタビューでは(沖縄タイムス琉球新報)、大城玲子保健医療部長が、専門家は感染症のことだけ考えてアドバイスをしてくれたら、後は県で経済との調整は頑張るとのエピソードが紹介されている。ここから推測すると、保健医療部長の役割のようであるが、ここでも正確な記録がなく、ブラックボックスとなっているので、どう報告されているのかも不明である。

議事概要のみの記録では、専門家の匿名性により多様な議論がみえなくなるし、何より発言に対して無責任となる。この件で、資料が即時的に公開されなかったこと、議事録がないこと等、県のコロナ対策をめぐる行政の不透明さの弊害が表れたといえよう。

また、細田発言で問題が広く認識された沖縄県の水際対策についても、国を説得する材料になりえていた可能性もある。

専門家の会議外のメディアでの発言

専門家が公的なデータをどう解釈したのかの公開情報は少ない一方で、専門家が会議外の媒体で、沖縄の感染拡大の原因に関する発言をしていたことを記録としておきたい。
これは、専門家の説明責任、市民とのコミュニケーションの点からも問題があるのではないか、との問題提起のためである。

例えば、専門家会議座長 藤田次郎医師は、感染拡大と観光に関して、何度か発言がある。
8月27日の専門家会議のすぐ後の9月10には、以下のような発言が掲載されている。

-「Go To トラベルと沖縄の新型コロナ―患者状況とその対策、医療現場から」(2020.9.10, 感染対策Online)

“Go Toトラベル以前に、東京の歌舞伎町のホストクラブ、およびキャバクラでクラスター(感染者集団)が発生し、多くの店が営業自粛となりました。休業した店がホストやキャバ嬢を確保する目的で慰安旅行を企画しました。本来ならグアム、またはハワイを選択するのでしょうが、患者数が少なかった沖縄が選択され、歌舞伎町から145名のホストと80名のキャバ嬢が団体で訪れ、沖縄の繁華街で楽しんだようです。そこにGo Toトラベルを活用した名古屋のホストと多くの観光客が加わりました。”

また、2波に関して、以下でも言及している。

-「新型コロナ 第3波 沖縄県の現状」(2020.11.16, 感染対策オンライン)

“沖縄県では、8月初旬に大きな第2波を経験しました。この第2波をもたらした契機となったのは米軍兵士の集団感染と他都道府県からの若者の旅行者でした。7月22日に開始したGo To トラベルが後押しとなりました。ウイルスは宿主と一緒に移動しますので、トラベルがウイルスを拡散させることは明らかです。沖縄県の経験から、第3波の直接原因は、10月1日から東京をGo To トラベルに加えたことによると考えます。第2波が大きかった沖縄県にも第3波が押し寄せている徴候が見えます。”

公的な記録からは確認できない数字もみられる。また、旅行者やGoToトラベルの感染拡大の影響を示唆している記述が多い

一方、専門家会議のスポークスパーソン的な役割(その正式な位置づけは不明)を担っている高山義浩医師(中部病院感染症内科)は、「観光客から感染が広がっている事例というのはほとんど認めていない。もちろん、それはわからないです」という発言を以下の浦添市長松本哲治氏との対談でしている。これは、8月29日の対談なので、厚労省の資料が共有された8月27日の専門家会議の直後である。

-【LIVE】新型コロナ感染拡大「第二波を受けて現状と今後」琉球プライム vol.5 -沖縄羅針盤-(2020.8.29)松本市長

(16:40頃〜 感染原因は観光客かどうかに関する問題)
「・・・今回は米軍のイベントがどのくらい影響をおよぼしているのか、最初はかなり危機感をもったんですけれども、実際のところは少なくとも疫学的な検討?では米軍からの感染拡大というのがそれほど大きくなかったかもしれない。これはもう少し分析する必要があります。むしろ県外との、いわゆる本土との交流の中で感染が広がってきたととらえています。まぁしばしばGoToキャンペーンではないかといわれているんですけれども、ただ実際観光客から感染が広がっている事例というのはほとんど認めていない。もちろん、それはわからないです。例えば松山地区に観光客が入っていってそこで広げていくということもあったでしょうし、全てとらえているわけではないんですけど、むしろ、それもあったけれども、県民が県外にいって帰ってきてご家族で感染が広がっているという事例というのが結構発見されているし、あるいは県外にいる娘さんとか親族が沖縄に戻ってそこで感染を広げているという事例もあったであろうし、要は要因は単一でなく米軍もあっただろうし、観光客もあっただろうし、あるいは県民が 旅行したことで持ち帰ってきたケースもあっただろうし、複合的な要因で感染が広がったととらえています。」
(45分頃には水際対策の話もでてきている。)

また、以下は8月27日の専門家会議以前のものであるが、こちらも沖縄の県民の旅行者や帰省者がウイルスを持ち込んで市中感染につながったとみられるという上述と同旨の発言がある。

NHK 沖縄の感染増加 専門家「県外から戻った人からか」 新型コロナ(2020年8月21日)

“県内で感染が急速に拡大したことについて、感染症の専門家で、県の専門家会議の委員を務める県立中部病院の高山義浩医師は「県外からの観光客が多く訪れたのが要因というよりは、むしろ、沖縄の人が県外へ行ったり、県外から沖縄に帰省したりした人がウイルスを持ち込み、市中感染につながったと見られる」としています。”

公的な専門家のテキストと議論の場を

このように、既存のメディアや、ネットやSNSでの専門家会議の委員の会議外の意見は、県が正式に入手したデータとともに示されるわけでもなく、根拠が不明なまま、聞き手や読み手が結果だけを受け取ることとなり、独り歩きすることになりかねない。

まずは、公的な場(専門家会議)での専門家としての責任ある分析、見識を示し、それが誰でもアクセスできる場で、根拠となるデータとともに公開されることが必要であろう。沖縄県の感染疫学関係の第三者による検証、批判が可能な場が、ないことは、健全な議論ができない環境につながっている。
科学性のある、公的な議論の材料と場をまず沖縄県は担保することが必要であろう。

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